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月の川 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第5章 Fly me to the Moon
階下に降り、バルコニーの扉を開けて梨央は前庭の芝生を踏む。
夜露がひんやりと、ナイトドレスの裾越しに脚元に当たる。
そっと音を立てないように、月城が佇む噴水のほとりまで近づく。
…月城は、じっと月を見上げていた。
月に照らされた横顔は彫刻のように美しく端正で…しかし、どこか寂しげな色を纏っていた。
…月城…。
梨央は月城の形の良いやや薄い唇に眼をやる。
…私…月城とキスをしたのね…。
思わず、唇を押さえる。
覚えていないはずなのに、月城の唇の感触はなぜか生々しく蘇る。
…熱く、激しく、情熱的に梨央の唇を求め、奪い、そして優しく抱きすくめられた…。
…梨央様!
耳元で名前を呼ばれた。
月城の熱い眼差しと強い抱擁が不意に蘇り、梨央は早鐘のように高鳴る胸を思わず抑えた。
…気配を感じたのか、月城がゆっくりと振り返る。
月城の眼が驚いたように見開かれる。
「梨央様。…どうされましたか?」
梨央は思わず顔を背け、口籠った。
月城が静かに梨央の方へと歩み寄る。
「…お寝みになれませんか?」
優しい声が梨央の頭上から響く。
おずおずと顔を上げると、月城の慈愛に満ちた顔が梨央を見つめていた。
梨央は小さく頷く。
「…光様がお帰りになられてお寂しいですか?」
子供をあやすような声に、梨央は素直に頷く。
「…寂しいわ。…光お姉様とは毎晩同じベッドで寝ていたの。…可笑しいかしら?」
月城は小さく笑いながら首を振る。
「…いいえ」
「…光お姉様が本当のお姉様だったら…と何度も思ったわ」
…けれど光は本当の姉ではない。
とても大好きだけれども…恋ではなかった…。
月城は梨央を噴水の前にあるベンチに誘う。
「お座り下さい」
そして、梨央が薄いシルクのナイトドレス1枚の姿だということに気づき、
「羽織るものを取ってまいりましょう。夏とはいえ、軽井沢の夜は肌寒い…」
すぐさまその場を離れようとする月城の腕を、梨央は思わず掴む。
「行かないで」
月城がはっと振り返り、梨央を見つめる。
「…行かないで…ここにいて、月城…」
梨央は澄んだ黒目勝ちの美しい瞳で月城を見上げる。
「…梨央様…」
二人は見つめあったまま動かない。
くちづけできるほど近い距離…
梨央の心臓は音を立てる。
…月城はふっと微笑を浮かべ、上着を脱いだ。
「ではこちらをお掛け下さい」
月城の黒い上着が優しく梨央の肩に掛けられる。
夜露がひんやりと、ナイトドレスの裾越しに脚元に当たる。
そっと音を立てないように、月城が佇む噴水のほとりまで近づく。
…月城は、じっと月を見上げていた。
月に照らされた横顔は彫刻のように美しく端正で…しかし、どこか寂しげな色を纏っていた。
…月城…。
梨央は月城の形の良いやや薄い唇に眼をやる。
…私…月城とキスをしたのね…。
思わず、唇を押さえる。
覚えていないはずなのに、月城の唇の感触はなぜか生々しく蘇る。
…熱く、激しく、情熱的に梨央の唇を求め、奪い、そして優しく抱きすくめられた…。
…梨央様!
耳元で名前を呼ばれた。
月城の熱い眼差しと強い抱擁が不意に蘇り、梨央は早鐘のように高鳴る胸を思わず抑えた。
…気配を感じたのか、月城がゆっくりと振り返る。
月城の眼が驚いたように見開かれる。
「梨央様。…どうされましたか?」
梨央は思わず顔を背け、口籠った。
月城が静かに梨央の方へと歩み寄る。
「…お寝みになれませんか?」
優しい声が梨央の頭上から響く。
おずおずと顔を上げると、月城の慈愛に満ちた顔が梨央を見つめていた。
梨央は小さく頷く。
「…光様がお帰りになられてお寂しいですか?」
子供をあやすような声に、梨央は素直に頷く。
「…寂しいわ。…光お姉様とは毎晩同じベッドで寝ていたの。…可笑しいかしら?」
月城は小さく笑いながら首を振る。
「…いいえ」
「…光お姉様が本当のお姉様だったら…と何度も思ったわ」
…けれど光は本当の姉ではない。
とても大好きだけれども…恋ではなかった…。
月城は梨央を噴水の前にあるベンチに誘う。
「お座り下さい」
そして、梨央が薄いシルクのナイトドレス1枚の姿だということに気づき、
「羽織るものを取ってまいりましょう。夏とはいえ、軽井沢の夜は肌寒い…」
すぐさまその場を離れようとする月城の腕を、梨央は思わず掴む。
「行かないで」
月城がはっと振り返り、梨央を見つめる。
「…行かないで…ここにいて、月城…」
梨央は澄んだ黒目勝ちの美しい瞳で月城を見上げる。
「…梨央様…」
二人は見つめあったまま動かない。
くちづけできるほど近い距離…
梨央の心臓は音を立てる。
…月城はふっと微笑を浮かべ、上着を脱いだ。
「ではこちらをお掛け下さい」
月城の黒い上着が優しく梨央の肩に掛けられる。