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月の川 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第6章 あの月の頂で
近くで見ると梨央は信じられないような美しい少女だ。
美しい肌や睫毛や瞳や鼻筋や唇…。
全てが作り物のように美しく儚げで、月城は毎日接していても見とれずにはいられない。
「梨央様は最近はお身体もご丈夫になられましたし…きっと楽しいお茶会を過ごされることと存じます」
「…そう…そうね。…私ももう16歳ですものね。
…我儘ばかり言ってはいけないわね」
梨央は自分に言い聞かせるように答える。
「…縣様は梨央様がお茶会に参加されましたら、どれほど喜ばれることでしょう」
縣は相変わらず…いや、年を重ねる毎に梨央への愛を高まらせている。
梨央を見つめる眼差しの熱さ、ひたむきさでそれは手に取るように感じられた。
多忙な中、少しでも時間ができると趣味の良い贈り物を携えて北白川家を訪問し、梨央に逢いに来る。
梨央も相変わらず縣を頼りになる兄のように慕い、尊敬しているようだ。
縣の訪問はいつも梨央を笑顔にさせる。
縣と梨央が庭の東屋で仲睦まじく語り合う光景は1枚の絵のように美しく、似合いの二人であった。
…月城はそんな二人をやや離れたところからそっと眺め、そして誰にも分からないように寂しげな微笑を浮かべる。
それが月城の常であった。

「…そうね…縣様は喜んでくださるわね…。
縣様にはいつもお世話になっているのだから、少しはご恩返しをしなくては…ね…」
梨央は静かに微笑んだ。
「そんなに構えられなくても…。梨央様が笑顔で過ごされることこそ、縣様が一番に喜ばれることかと存じます」
「…わかったわ。お伺いいたします。…これから縣様にお返事を書きますわ」
「はい。後ほど縣様のお屋敷に使いをやりましょう。
それではお書きになられましたらお呼び下さい」
月城は恭しく一礼し、音楽室を辞した 。
…縣様のお茶会か…。
上流階級の、とりわけ名門貴族の方々が多数お見えになるだろう。
滅多に社交界に現れない梨央様を一目見ようと、来賓の方々は注目されるに違いない。
梨央様が一番お美しく輝いて見えるよう、お支度を入念にしなくては…。
…縣様と、梨央様の為にも…。
月城は引き締まった表情で、メイド長の茅野のもとに向かった。




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