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月の川 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第6章 あの月の頂で
「梨央様、そろそろ縣様のお屋敷に到着いたします」
メルセデスが松濤の坂道を登った辺りで月城は後部座席の梨央を振り返った。
「…ええ、分かったわ」
小さな声で答える梨央は、月城が思わず眼を見張るほど美しい。
今日はお茶会なのでアフタヌーンドレスなのだが、北白川伯爵がパリの有名デザイナーに依頼した白いレースをふんだんに使用した美しくも上品なフォルムのそれは、梨央の高貴な美しさや可憐さに大変良く似合っていた。
屋敷を出発する時も、見送りのメイド達が感激の溜息を思わず漏らした程であった。
そんな自分の美貌に全く頓着する様子もなく、梨央は薄く化粧した顔に緊張の表情を浮かべ、窓の外を見る。

これまでも梨央は、縣の屋敷を数回だが訪問したことがある。
しかしその時は父、北白川伯爵と同行であったし、他に来客はいなかったので、大勢の来賓が集まるパーティはこれが初めてだったのだ。

緊張から口数が少ない梨央に、月城は励ますように優しく声をかける。
「梨央様、大丈夫ですよ。いつものように過ごされたらよろしいのです」
梨央は月城を見つめ、子供のように不安げに尋ねる。
「…ずっと側にいてくれる?月城…」
「はい。私は梨央様のお側におります。どうぞご安心下さい」
月城の穏やかな微笑みを見て、梨央は少しほっとしたように頷いた。

「…月城さん、御門が見えて来ましたよ。
…縣様のお屋敷も、凄いですね…!まるで西洋のお城だ」
フランス様式の煉瓦積みの壁に、尖った塔。
豪奢な中にも洗練されたバロック様式を取り入れた品の良い洋館が見えてきた。
素朴な運転手が驚いたように声を上げた。



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