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月の川 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第6章 あの月の頂で
お茶会が催される大広間に向かう廊下で、縣は梨央の腕を取りながら優しく話しかける。
「梨央さんのお席は、麻宮翠さん…光さんのお妹君のお隣です。翠さんとはお従姉妹同士ですからお気を遣われないかと思いまして…同じテーブルのお嬢さん方も皆さん、梨央さんとお年の近い方々ばかりですから、きっとお話も弾まれるかと…」
梨央は縣の温かい心遣いに感激する。
「…縣様…何から何まで…ありがとうございます」
「どういたしまして。…月城、君は梨央さんのお側に待機して差し上げてくれ」
縣は後ろの月城を振り返る。
「よろしいのですか?」
「何かあった時に君が側にいたら、梨央さんも心強いだろう」
縣の心の広さに、月城は改めて敬服する。
縣は今まで、梨央の人見知りや引っ込み思案ゆえに屋敷に引きこもることや、執事の自分が側にいないと心細そうにすることなどを批判したこともなければ、苦言を呈することもない。
常に梨央のしたいように、梨央の意思を一番に尊重し、無理強いをしたこともなかった。
執事の自分のことも一目置いて接してくれる。
…縣様ほど外見も内面も立派な紳士の方はそうはおられないだろう。
月城は年々、縣への尊敬の念を強く持つようになっていた。
それは梨央も同じである。
「ありがとうございます。縣様。私の我儘を尊重してくださって…」
申し訳なさそうに礼を言う梨央の手を優しく握り、縣は梨央の眼を見つめた。
「とんでもない。…本当は私がずっと梨央さんのお側にいたいのですが、今日はホスト役を務めなくてはならないので、なかなか眼が行き届かないかも知れません。
どうか、楽しい時間を過ごしていただけますように」
「縣様…」
「では、後ほどお会いしましょう…」
縣は名残惜しげに梨央に挨拶すると、再び玄関ホールに戻っていった。
…縣様…。
本当に…相変わらず…いいえ、益々私に優しく大切にしてくださる…。
あんなにお優しくて、ご立派な方はそうはいらっしゃらないわ…。
梨央は縣の欧米人並みにすらりとした体躯の後ろ姿を見送りながら思いをはせた。
月城はそんな梨央を見守りながら、そっと声を掛ける。
「…梨央様、そろそろ参りましょうか…」
梨央はゆっくり振り返ると、やや緊張した面持ちながらも笑みを浮かべ、頷いた。

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