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月の川 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第6章 あの月の頂で
アールヌーボー様式をふんだんに取り入れ、贅を尽くした装飾の大広間には既に来客がそれぞれのテーブルに着き、銘々雑談や談笑を楽しんでいる。
梨央が緊張した面持ちで室内に足を踏み入れると、一斉に皆の注目が集まった。
滅多に社交界の集まりに顔を出さない北白川伯爵令嬢が現れたのだから無理もない。
皆はまず、その輝くばかりの類いまれなる美貌に息を呑んだ。
社交界には美しい令嬢は両手に余るほど存在するが、梨央の美しさは別格であった。
その透明感や穢れを知らない美しさはさながら一度も外気に触れたことのない貴重貴種な尊い白薔薇のような美しさであった。
人々の熱い注目の中で、梨央は目を伏せながらテーブルに進む。
「梨央様!お久しぶりね!お会い出来て嬉しいわ!」
梨央に溌剌とした声をかけたのは、梨央と同い年の麻宮翠…光の妹だった。
光のように人目をそばだてるような絢爛たる美貌ではないが、明るく健やかな愛らしい少女である。
翠に屈託無く挨拶され、梨央はほっと緊張を解いた。
「翠様、ご無沙汰しております。ご機嫌いかがですか?」
翠の隣に着席しながら、梨央は声をかける。
「元気よ。梨央様とはお正月以来ね。
…私も軽井沢の別荘に伺いたかったのに、お姉様が貴女が来るとお喋りで騒がしくなるからダメって言われたのよ。ひどいお姉様でしょ?」
丸い頬を膨らませながら憤慨する翠が可愛らしくて梨央は思わず笑いを漏らした。
「今度はぜひ、いらして下さいね。よろしければ、麻布の屋敷にも…」
翠は瞳を輝かせる。
「本当に?嬉しい!…梨央様のお屋敷には珍しいものが沢山あるんですもの。…昔はよくお姉様と梨央様で探検したわよね?…お姉様は意地悪だから私を広くて暗い広間に置き去りにして、梨央様を連れてどこかに行かれたりして…ああもう!思い出しても腹が立つわ!」
1人プンプン怒る翠が可笑しくて梨央も声を立てて笑い出す。
美しいが近寄りがたい静謐さを湛えた伯爵令嬢が楽しそうに笑い出したことで、テーブルの雰囲気も一気に和んだ。
同じテーブルの他の令嬢が口々に翠に懇願する。
「翠様、私にも梨央様をご紹介して」
「あら、私が先よ」
「私が先よ!お家もご近所なのですもの」
「まあまあ、今ご紹介しますわよ。皆様落ち着いて」
翠がのんびり皆を制する。
離れた壁際でその様子を見守っていた月城は心から安堵の溜息を吐いた。
梨央が緊張した面持ちで室内に足を踏み入れると、一斉に皆の注目が集まった。
滅多に社交界の集まりに顔を出さない北白川伯爵令嬢が現れたのだから無理もない。
皆はまず、その輝くばかりの類いまれなる美貌に息を呑んだ。
社交界には美しい令嬢は両手に余るほど存在するが、梨央の美しさは別格であった。
その透明感や穢れを知らない美しさはさながら一度も外気に触れたことのない貴重貴種な尊い白薔薇のような美しさであった。
人々の熱い注目の中で、梨央は目を伏せながらテーブルに進む。
「梨央様!お久しぶりね!お会い出来て嬉しいわ!」
梨央に溌剌とした声をかけたのは、梨央と同い年の麻宮翠…光の妹だった。
光のように人目をそばだてるような絢爛たる美貌ではないが、明るく健やかな愛らしい少女である。
翠に屈託無く挨拶され、梨央はほっと緊張を解いた。
「翠様、ご無沙汰しております。ご機嫌いかがですか?」
翠の隣に着席しながら、梨央は声をかける。
「元気よ。梨央様とはお正月以来ね。
…私も軽井沢の別荘に伺いたかったのに、お姉様が貴女が来るとお喋りで騒がしくなるからダメって言われたのよ。ひどいお姉様でしょ?」
丸い頬を膨らませながら憤慨する翠が可愛らしくて梨央は思わず笑いを漏らした。
「今度はぜひ、いらして下さいね。よろしければ、麻布の屋敷にも…」
翠は瞳を輝かせる。
「本当に?嬉しい!…梨央様のお屋敷には珍しいものが沢山あるんですもの。…昔はよくお姉様と梨央様で探検したわよね?…お姉様は意地悪だから私を広くて暗い広間に置き去りにして、梨央様を連れてどこかに行かれたりして…ああもう!思い出しても腹が立つわ!」
1人プンプン怒る翠が可笑しくて梨央も声を立てて笑い出す。
美しいが近寄りがたい静謐さを湛えた伯爵令嬢が楽しそうに笑い出したことで、テーブルの雰囲気も一気に和んだ。
同じテーブルの他の令嬢が口々に翠に懇願する。
「翠様、私にも梨央様をご紹介して」
「あら、私が先よ」
「私が先よ!お家もご近所なのですもの」
「まあまあ、今ご紹介しますわよ。皆様落ち着いて」
翠がのんびり皆を制する。
離れた壁際でその様子を見守っていた月城は心から安堵の溜息を吐いた。