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月の川 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第2章 My Fair Lady
朝食の後片付けを終えると、月城は平日は大学に通う。
皆が忙しく働いている中、大学に向かうのは気が引けたのだが、メイド長の茅野は
「なに遠慮しているの。旦那様が許可されたことを引け目に思うことないわ。貴方は将来の執事さんなのよ。勉強することが仕事でもあるわ」
と背中を押してくれた。
下僕長の大は、陽気に笑い手を振る。
「俺は勉強嫌いだから、お前を尊敬するよ。その内、女を口説き落とすフランス語でも教えてくれ」
優しい使用人達に頭を下げ、月城は着替えて鞄を持ち、階上に上がる。

使用人の出入り口に出ると、運転手に指示を与えていた伯爵の従者の狭霧と目が合う。
月城が目礼すると、狭霧はしなやかな動きで近づき、上着の襟をさりげなく直してくれた。
「…旦那様のジャケットがよく似合う」
艶な眼差しで笑いかけられると、男の月城ですらどきどきする。
「あ、ありがとうございます」

…私服など皆無だった月城の元に伯爵のお下がりの私服を持って来てくれたのは狭霧だった。
「…旦那様からだよ。大学に行く時に着るようにと」
「…⁈旦那様の?そんな…もったいなくて頂けません…」
お下がりと思えないような状態の良さだ。もちろん仕立ての良い舶来品ばかり…。
狭霧はそのほっそりとした指で月城の顎を持ち上げ、彫刻のように整った美しい顔を近づける。
「…いいかい?君は由緒正しい北白川伯爵家の執事見習いなのだよ。その君がみすぼらしい格好をして世間に出る事は即ち、旦那様のお名前に傷を付ける事になる。…美しく装うことは使用人の義務でもあるのさ」
「は、はい…」
硬くなる月城の緊張を解すように狭霧はいたずらっぽく笑い、月城の頬を撫でた。
「…美しい執事見習いなら尚更なことだ。…旦那様を喜ばせて差し上げてくれ」


「大学は楽しい?」
狭霧は優しく尋ねる。
「はい!大学に通えるなんてまだ夢を見ているようです…」
「それは良かった。しっかり勉強しておいで」
…そこに中庭から来たらしい梨央が走り寄る。
「もう行っちゃうの?月城…」
梨央だけは月城が大学に行くことを快く思わない。
寂しそうな顔を見て切なくなる。
「授業が終わったらすぐに帰ります」
「きっとよ!」
狭霧が梨央を優しく抱き上げる。
「さあ、梨央様。月城にご挨拶を」
美しい2人に手を振られ、大学に向かう。
そっと呟く。
…夢のように幸せだ。










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