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月の川 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第2章 My Fair Lady
大学では友人もできた。
東京の大学…しかも帝大なんて皆、恵まれた金持ちばかりだと思っていたが、実はそうでもなかった。
もちろん裕福な家庭の子弟も多いが、大半は家庭教師などのアルバイトを掛け持ちしながら通う苦学生だ。
だから月城は、自分の出自に引け目を感じることもなく通うことができた。

「月城!…相変わらず洒落た格好をしているなあ」
声をかけて来たのは轟と言う名の鹿児島出身の厳つい風貌の剣道有段者だ。将来の夢は政治家の彼は、国務大臣の屋敷に書生として住み込んでいる。
「実家は水飲み百姓さ。いつか俺が出世して、家族に楽をさせてやるのだ」
豪快に笑う彼と一緒にいると、気持ちが弾む。
境遇が似ていることもあり、大学では一番の仲良しだ。

「旦那様のお下がりなんだ」
嬉しげに告げる月城に、轟は目を丸くしてみせる。
「北白川伯爵はなんちゅう優しか人なんじゃ!」
驚くと薩摩弁が出る轟だ。
「うん。お優しくて理知的で…しかもお美しくて素晴らしい方だよ」
轟はため息を吐く。
「羨ましかあ…。…月城は美味そうな弁当もいっつも持ちよるしのう…」
…料理長の春は毎日、弁当を持たせてくれるのだ。

「大したものじゃないよ。賄いだから気にしないで持ってお行き」
大したものではないと言いながらも、料理上手な春の弁当なので、野菜と卵がたっぷり入ったサンドイッチや、色とりどりの具が入った巻きずしなど愛情溢れる内容で、月城はいつも弁当箱を開くたびに温かい気持ちになる。
「…うちの賄いのおばちゃんはケチじゃけん、毎日日の丸弁当じゃ!」
嘆く轟に月城は笑いながら弁当を分けてやった。


授業が終わると月城は急いで帰宅する。
轟も書生の仕事があるので帰宅組だ。
帰る途中に、大学の馬術部の馬場があり、いつも見るともなく眺めながら歩く。

…と、一人の青年が颯爽と馬に跨り、馬場を疾走するのが目に入った。
高い障害物の柵を越えると、彼は馬に優しく声をかける。
「アルフレッド、調子は上々だな」
…舶来品らしき洗練された乗馬服、黒い乗馬ブーツはぴかぴか輝いている。帽子の下の横顔は端正に整い、華やかな美男子だ。

「ありゃあ、馬術部の主将じゃあ。どこぞの貴族の御曹司らしい。かっこええのう…」
「…そうだね」
頭脳も美貌も家柄も財力も…全て備えた学生がいるんだな…。
…月城は少しだけ、羨望の溜息を吐いた。




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