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月の川 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第6章 あの月の頂で
お茶会は盛大に和やかに進行し、そこかしこで華やかな笑い声や賑やかに語り合う声が聞こえていた。
カルテットが軽やかで優雅なヨハン・シュトラウスを奏で、パーティを盛り上げている。
中盤に差し掛かった頃、翠が月城をちらちら見ながら梨央に耳打ちする。
「ねえ、梨央様。梨央様の執事、素敵ね…!名前は何と言うの?」
「月城ですわ」
梨央もつられて振り返る。
少し離れた壁際に目立たないように待機している月城は、黒い執事の制服を着用し、地味に装っているが、その人目を惹く美貌と容姿ゆえに周りのテーブルの淑女達からは熱い視線で見つめられていた。
月城は梨央と目が合うと静かに唇に笑みを浮かべた。
「笑ったわ!…ねえ、すごくハンサムね。背も高くてかっこいいわ。それに梨央様を忠実にお護りしていて…羨ましい!」
翠は丸い頬を赤らめ、うっとりと月城を見つめた。
梨央は思わず微笑む。
「ありがとうございます。…ええ、月城は優しくて本当に頼りになる執事です」
…優しくて頼りになって…こんな風に女性の目を釘付けにしてしまうほど美しくて…。
梨央の胸が甘く疼く。
しかし、そんな自分を打ち消すように慌てて心の中でつぶやく。
…だめよ、梨央。
月城を好きになってはいけないの。
だって…私には…。

上げた視線の先には、各テーブルを回り来賓に挨拶し、洗練された様子でもてなしている縣がいた。
…縣様がいるのだから。
縣に胸の内を伝えられたのは2年前…。
あれ以来、縣には何も言われてはいない。
縣は言葉で梨央を縛るようなことはしない。
…けれど、感じる…。
縣様が私をどんなに大切に…そして愛してくださるか、その思いをひしひしと…。
それは決して嫌なことではないけれど…
縣様のことを考えると、必ず月城のことを考えてしまう…!
2年前のあのくちづけを…。
あの月夜の抱擁を…。

縣が梨央の視線を感じたのか、瞳を上げる。
縣は温かく慈しむような微笑みを梨央に送り、頷いた。
…こんなに優しくしてくださる縣様を、失望させるわけにはいかないわ…。
梨央は静かに笑い返す。
…月城とのあの一夜は…
二人だけの秘密…。
私と、月城だけの秘密…。

梨央は月城を振り返る。
他の執事に話しかけられ穏やかな表情で話す月城を、梨央は切ない思いで暫し見つめるのだった。
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