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月の川 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第6章 あの月の頂で
「あらまあ、こちらにいらっしゃるのは北白川梨央様ではございませんこと?」
一際華やかだがやや険を含む声が近くから飛んだ。
はっと梨央が顔を上げると、目の前に派手な真紅のドレスに身を包んだ1人の美しい令嬢が梨央を値踏みするように見下ろしていた。
翠が声を上げる。
「華子様…!」
「私は白峰華子。初めまして、梨央様。どうぞよろしくね」
紅薔薇色のレースの手袋を嵌めた手を差し出す。
梨央は慌てて起立し、手を差し伸べた。
途端にかなり強い力で握り返され、梨央はびくりと震えた。
「は、初めまして。北白川梨央でございます。こちらこそ、どうぞよろしくお願いいたします」
「…梨央様…噂に違わぬお美しいお方…。まるで白薔薇のような初々しさと清らかさ…。縣様が夢中になられるのも無理はないわ」
華子は歯が浮くような賛辞を並べ立てる。
言葉とは裏腹にその瞳は決して笑ってはおらず、ひたすら鋭い視線を梨央に向けて来る。
梨央は本能的に身体を縮め、俯いた。
そんな梨央に華子は殊更優しく甘い口調で話しかけた。
「ねえ、梨央様。私、梨央様とお親しくなりたいの。…こちらの温室にご一緒しませんこと?それはそれは美しい薔薇の株がたくさんあるのですって。
…梨央様とご一緒にお喋りしながら拝見したいわ」
華子の思わぬ申し出に、梨央は戸惑った。
それまで固唾を呑んで見守っていた翠が、そっと梨央のドレスの袖を引いて囁く。
「いらっしゃらない方がよろしいわ、梨央様。
…華子様のお父様はホテル王でそれはお金持ちのお方なのだけれど、とても意地悪なの。私の友人も何人も泣かされてきたわ」
華子は目敏く翠に声をかける。
「何かおっしゃって?翠様。…私の悪口かしら?」
翠は慌てて首を振る。
「い、いいえ、まさか…」
テーブルの令嬢達も水を打ったように沈黙し、ことの推移を見守っていた。
…皆様をご心配させてはいけないわ。
梨央はドキドキする胸の高鳴りを抑えながら、小さな声で答えた。
「…あ、ありがとうございます。…私などがご一緒して、華子様をご退屈させなければ良いのですが…」
華子は蜜のように梨央に笑いかけ、手を取った。
「まあ、可愛い方。…梨央様のお美しいお顔を拝見するだけでも時がすぎると言うものだわ。さあ、こちらに…」
と、強引に手を引かれる梨央を壁際の月城は敏感に察知し、しなやかな動作で近づいて来た。
一際華やかだがやや険を含む声が近くから飛んだ。
はっと梨央が顔を上げると、目の前に派手な真紅のドレスに身を包んだ1人の美しい令嬢が梨央を値踏みするように見下ろしていた。
翠が声を上げる。
「華子様…!」
「私は白峰華子。初めまして、梨央様。どうぞよろしくね」
紅薔薇色のレースの手袋を嵌めた手を差し出す。
梨央は慌てて起立し、手を差し伸べた。
途端にかなり強い力で握り返され、梨央はびくりと震えた。
「は、初めまして。北白川梨央でございます。こちらこそ、どうぞよろしくお願いいたします」
「…梨央様…噂に違わぬお美しいお方…。まるで白薔薇のような初々しさと清らかさ…。縣様が夢中になられるのも無理はないわ」
華子は歯が浮くような賛辞を並べ立てる。
言葉とは裏腹にその瞳は決して笑ってはおらず、ひたすら鋭い視線を梨央に向けて来る。
梨央は本能的に身体を縮め、俯いた。
そんな梨央に華子は殊更優しく甘い口調で話しかけた。
「ねえ、梨央様。私、梨央様とお親しくなりたいの。…こちらの温室にご一緒しませんこと?それはそれは美しい薔薇の株がたくさんあるのですって。
…梨央様とご一緒にお喋りしながら拝見したいわ」
華子の思わぬ申し出に、梨央は戸惑った。
それまで固唾を呑んで見守っていた翠が、そっと梨央のドレスの袖を引いて囁く。
「いらっしゃらない方がよろしいわ、梨央様。
…華子様のお父様はホテル王でそれはお金持ちのお方なのだけれど、とても意地悪なの。私の友人も何人も泣かされてきたわ」
華子は目敏く翠に声をかける。
「何かおっしゃって?翠様。…私の悪口かしら?」
翠は慌てて首を振る。
「い、いいえ、まさか…」
テーブルの令嬢達も水を打ったように沈黙し、ことの推移を見守っていた。
…皆様をご心配させてはいけないわ。
梨央はドキドキする胸の高鳴りを抑えながら、小さな声で答えた。
「…あ、ありがとうございます。…私などがご一緒して、華子様をご退屈させなければ良いのですが…」
華子は蜜のように梨央に笑いかけ、手を取った。
「まあ、可愛い方。…梨央様のお美しいお顔を拝見するだけでも時がすぎると言うものだわ。さあ、こちらに…」
と、強引に手を引かれる梨央を壁際の月城は敏感に察知し、しなやかな動作で近づいて来た。