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月の川 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第6章 あの月の頂で
「…梨央様、どちらかにお出かけでいらっしゃいますか?」
穏やかな声で尋ねる。
「…月城…。え、ええ…。華子様と温室に…」
梨央は月城を見ておずおずと答える。
梨央が戸惑っていることは、火を見るよりも明らかであった。
月城は梨央の手を半ば強引に握りしめている華子を見た。
…美しいが険を含んだ眼差し…。
白峰侯爵様のお嬢様か…。
梨央様になぜ興味を示されるのだろうか…。
接点は特にないはずだが…。
思案しながらも、微笑しながら丁寧に一礼する。
「かしこまりました。お供いたします」
途端に華子が辺りに響き渡るような甲高い声で笑った。
「まあ!梨央様は16歳でいらっしゃるのに、まだ執事がご一緒でないと何処にもお出ましになれないのかしら?お可愛らしいこと!…それとも…私が梨央様に何かをなさると警戒されているのかしら?」
月城の眉が僅かに上がる。
梨央は慌てて、首を振る。
「いいえ、そのような…。大丈夫ですわ。華子様。
…月城、貴方はこちらで待機していて」
「…しかし、梨央様…」
梨央は明るく笑ってみせる。
「大丈夫よ。…私ももう16歳ですもの。他の方々もお付きはいらっしゃらないし…心配しないで」
「梨央様…」
華子は殊更馴れ馴れしく梨央の腰を抱き寄せる。
「梨央様は素直でいらっしゃるわ。…ご心配なく、ハンサムな執事さん。梨央様はすぐにお返しいたしますから。
…さあ、梨央様、二人で美しい温室を愛でにまいりましょう」
華子に手を強く引かれ、梨央はよろめきそうになりながら、懸命に笑顔を作る。
「は、はい。…では、皆様、少し失礼いたします」
月城は、従順に華子について行く梨央の後ろ姿を案じながら見送る。
翠がぽつりと呟く。
「…華子様、どうしてあんなに梨央様に執着なさるのかしら?
…噂だけれど、華子様は縣様に恋をされて縁談をお持ち込みになったけれど、縣様にお断りされたとお聞きしたのに…」
「…え?」
月城は端正な顔に懸念そうな表情を浮かべ、二人の消えて行った扉を見つめた。


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