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月の川 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第6章 あの月の頂で
「こちらですわ。縣様!華子様が梨央様をこちらの温室に連れていかれたの!月城さんも探しに行かれて…」
扉付近で翠の声が響いたかと思うと、縣の緊張を孕んだ声が続く。
「ありがとうございます、翠さん。翠さんは広間に戻られて下さい。お友達がご心配されるといけない」
「…ええ。分かったわ」
女性らしき靴音が遠ざかる…。
…焦る気持ちを抑えて温室の扉を開いた縣の目に飛び込んで来たのは、憔悴しきった梨央とその梨央を大切そうに抱き上げている月城の姿だった。
月城は縣の姿を認めると、梨央を横抱きにしたまま会釈する。
「…梨央さん!どうされたのですか⁈」
縣は梨央の側に駆け寄る。
梨央は縣の顔を見るなり、辛そうに目を伏せて月城に縋り付いた。
前回の雷の時のように発作は起こしてはいないが、かなりのショックを受けた様子だ。
「…梨央さん…!話して下さい、何があったのですか?」
梨央は月城の胸に、顔を埋めたまま首を振る。
…縣様とお話ししたら…華子様がお怒りになるわ…。
梨央は先刻の件ですっかり思考能力を失っていた。
何も答えない梨央の代わりに、月城が黙って無残に散らされた白薔薇の髪飾りをそっと縣に見せる。
縣は驚きのあまり目を見張る。
「…これは…!まさか…華子さんが…!」
白峰華子がただならぬ様子で強引に梨央を温室に連れて行ったと翠が言っていた。
…華子さんは私が縁談を断ったことで、梨央さんを逆恨みして…?
「華子さんにされたのですか⁈そうなのですね⁈」
梨央は顔を引きつらせて首を振る。
「ち、違います!華子様ではありません…!わ、私が…私が誤って踏んでしまって…」
梨央の白磁のような頬に透明な涙が流れ落ちる。
梨央は手で顔を覆う。
「…お願いです…縣様…私を…帰して…家に帰して下さい…!」
…これ以上、ここにいたらまた華子が自分を責め立てに来るような錯覚に囚われてしまう梨央だった。
「…梨央さん…!」
月城が静かに、しかし決して一歩も譲らぬ決意を胸に秘めながら口を開く。
「…縣様、恐れながら梨央様のお望みを叶えていただけないでしょうか。梨央様がこのままお茶会の席にお戻りになるのはもはや不可能…どうかこのまま失礼するご無礼をお許し下さい」
「…月城…」
縣は幽霊に怯える子供のような梨央を痛ましく思いながらも、ひたすらに取り縋られる月城に一抹の嫉妬を感じずにはいられなかった。
扉付近で翠の声が響いたかと思うと、縣の緊張を孕んだ声が続く。
「ありがとうございます、翠さん。翠さんは広間に戻られて下さい。お友達がご心配されるといけない」
「…ええ。分かったわ」
女性らしき靴音が遠ざかる…。
…焦る気持ちを抑えて温室の扉を開いた縣の目に飛び込んで来たのは、憔悴しきった梨央とその梨央を大切そうに抱き上げている月城の姿だった。
月城は縣の姿を認めると、梨央を横抱きにしたまま会釈する。
「…梨央さん!どうされたのですか⁈」
縣は梨央の側に駆け寄る。
梨央は縣の顔を見るなり、辛そうに目を伏せて月城に縋り付いた。
前回の雷の時のように発作は起こしてはいないが、かなりのショックを受けた様子だ。
「…梨央さん…!話して下さい、何があったのですか?」
梨央は月城の胸に、顔を埋めたまま首を振る。
…縣様とお話ししたら…華子様がお怒りになるわ…。
梨央は先刻の件ですっかり思考能力を失っていた。
何も答えない梨央の代わりに、月城が黙って無残に散らされた白薔薇の髪飾りをそっと縣に見せる。
縣は驚きのあまり目を見張る。
「…これは…!まさか…華子さんが…!」
白峰華子がただならぬ様子で強引に梨央を温室に連れて行ったと翠が言っていた。
…華子さんは私が縁談を断ったことで、梨央さんを逆恨みして…?
「華子さんにされたのですか⁈そうなのですね⁈」
梨央は顔を引きつらせて首を振る。
「ち、違います!華子様ではありません…!わ、私が…私が誤って踏んでしまって…」
梨央の白磁のような頬に透明な涙が流れ落ちる。
梨央は手で顔を覆う。
「…お願いです…縣様…私を…帰して…家に帰して下さい…!」
…これ以上、ここにいたらまた華子が自分を責め立てに来るような錯覚に囚われてしまう梨央だった。
「…梨央さん…!」
月城が静かに、しかし決して一歩も譲らぬ決意を胸に秘めながら口を開く。
「…縣様、恐れながら梨央様のお望みを叶えていただけないでしょうか。梨央様がこのままお茶会の席にお戻りになるのはもはや不可能…どうかこのまま失礼するご無礼をお許し下さい」
「…月城…」
縣は幽霊に怯える子供のような梨央を痛ましく思いながらも、ひたすらに取り縋られる月城に一抹の嫉妬を感じずにはいられなかった。