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月の川 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第2章 My Fair Lady
月城が帰宅すると、梨央はすぐに駆け寄って来る。
今日もダイニングルームで晩餐に使用する銀食器を並べていると、後ろから軽い足音が響き、ふいに抱きつかれた。
「月城!お帰りなさい!」
柔らかい小さな手の感触…。
振り返ると梨央が満面の笑みで月城を見上げている。
思わず、笑いかけてしまう。
「ただいま戻りました。…梨央様はご機嫌良くお過ごしでしたか?」
「ええ。ピアノのレッスンと、国語と算数と英語のお勉強をしたわ。…ピアノは明日、縣様にご披露しなくてはいけないからと何回も練習させられて疲れちゃった…」
可愛らしい手をひらひらさせる仕草が愛らしい。
「それはお疲れ様でした。…縣様とはどなたなのですか?」
梨央は少し考え込みながら答える。
「お父様のお友達。…あとね、梨央のこう…こうけ…忘れちゃった…。それより、月城!今日も梨央が寝るまで側にいてくれる?」
月城の寝かしつけは今や習慣になっていた。
「いいですよ」
月城は梨央を抱き上げる。
ふんわりと薔薇の香りがするのは、最近梨央が温室の薔薇の世話に夢中だからだろう。
相変わらず軽くて妖精か天使のようだ。
梨央の柔らかいふわふわの手が、月城の首筋に回される。
くすぐったいような、甘やかな感覚に不思議な胸苦しさを感じる。
黒くしっとりした瞳が月城を見つめる。
さくらんぼのように瑞々しく赤い唇が開かれる。
「ご本も読んでくれる?」
「いいですよ。…お食事をきちんと召し上がったら…ですよ?」
「わかったわ!じゃあ、後で一緒にお父様の図書室に行ってくれる?月城と選びたいの」
「ええ。今夜は何の本にしましょうかね…」
梨央は嬉しそうに月城にぎゅっと抱きつく。
「月城、だいすき!」
月城もそっと梨央を抱きしめ返す。
「…私もです…」
強く抱けば、砕けてしまいそうな小さく華奢な身体…。
さらさらの美しい黒髪…。
奇跡のように美しく清らかな少女…。
…大好きです…梨央様…。
月城は梨央と見つめ合う。
漆黒の瞳は吸い込まれそうに澄み切っている。
その白磁のように滑らかで白い頬に触れようとしたその時…
「…梨央様、ますみが探しておりましたよ。お召し替えのお時間です」
ダイニングの入り口から橘の声が聞こえた。
月城ははっとして、素早く梨央を下に下ろす。
梨央は素直に
「じゃあ、またね。月城」
と、足音も軽やかに部屋を出て行く。










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