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月の川 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第6章 あの月の頂で
梨央がぼんやりと、読みかけの本を開いていると、突然廊下が慌ただしい雰囲気に包まれた。
…何かしら?
ふと、扉に目を向けた瞬間、飛び込んできたのは縣の姿であった。
梨央は驚きのあまり、眼を見張る。
「縣様…!」
「突然、こんな形で伺う無礼をお許しください。…けれど、私はどうしても梨央さんにお眼にかかりたかったのです」
梨央は驚きと恥ずかしさから縣に背を向け、部屋の隅に逃げ込んだ。
「梨央さん!」
縣が追いすがろうとするのに対して
「…いや…いらっしゃらないで…」
弱々しく拒絶の言葉を口にする。
「…そんなに私がお嫌いですか…」
哀しげな縣の言葉が響く。
咄嗟に振り向き、激しく首を振る。
「違います!縣様を嫌いだなんて…!」
「ではなぜ、私を拒まれるのですか?」
縣はゆっくりと梨央との距離を縮める。
「…拒んでなどおりませんわ…私は…自分自身に失望しているのです…」
「華子さんに何を言われたのか分かりませんが、華子さんはもう二度と、私の屋敷にはお招きしません。
…私の愛する人を傷つけたのですから」
梨央は大きな瞳を見開き、首を振る。
「そんな!いけませんわ!」
縣の長い腕が梨央の華奢な身体を捉える。
あ…!と声を上げる間も無く、梨央の身体は縣の逞しい胸に抱き取られていた。
「…貴女をあんなにも哀しませてしまった…私は貴女の涙を思い出すだけで胸が痛んで夜も眠れなかった…」
縣の胸は父、伯爵を思い起こさせる。
…温かくて逞しくて安心感に包まれる…。
梨央は抗うこともなく、素直に身体を預けた。
「…私が心弱いのがいけないのです」
「そんなことはない!」
梨央はゆっくり縣を見上げた。
縣の眼差しを真っ直ぐに受け止める。
「…華子様に言われました。…私は縣様の奥様に相応しくないと。…ショックでした。
けれどここ数日ずっと考えていたら…華子様が言われたことは正しいと思うようになったのです。」
「何を仰るのですか!」
「…私は…縣様の奥様になる自信がありません」
梨央は再び弱々しく目を伏せた。

扉の隙間から、月城は固唾を飲んで2人を見守る。
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