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月の川 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第6章 あの月の頂で
その夜、眠れないままに梨央は寝台から起き上がり、窓辺に近づく。
…月の光が蒼く眩いばかりの満月が輝いていた。
ふと下を覗くと…庭園の噴水のほとりに月城が佇み、月を見上げていた。
青白い月の光に照らされた月城は怖ろしいまでに凄絶に美しい。
…まるであの軽井沢の夜のようだわ…。
梨央はそのデジャヴュに眩暈を覚える。

何かに導かれるかのように階下に降り、バルコニーへ続く扉を開ける。
庭園はガス灯の灯りと月明かりでまるで昼間のように明るかった。
梨央は迷いのない足取りで月城に近づく。

「…月城…」
背後からそっと声をかける。
月城はゆっくりと梨央を振り返り、まるでここに訪れることを予測していたかのように、静かに微笑んだ。
「…梨央様。今宵は満月ですね」
梨央は月城の微笑につられるように、ほっと笑みを漏らした。
「…ええ。月明かりが部屋の中まで降り注いできたわ」
そう言いながら、月城の隣に立つ。
月城は、薄いナイトドレス1枚の梨央の姿を見ると、わざと溜息を吐いて見せる。
「…梨央様はまたそのような格好で…。お風邪を召したらどうなさいますか」
と、素早く自分の上着を脱ぎ、梨央の肩に羽織らせる。
梨央の身体は月城の水仙のような香りのフレグランスに包まれる。
…胸の奥が甘く疼く。
思い出しではだめ…辛くなるから…。
梨央は自分に言い聞かせる。
「寒くありませんか?」
月城の眼鏡の奥の瞳が優しく尋ねる。
梨央は黙って首を振る。
「…おかけになりませんか?」
月城は噴水の前にある大理石のベンチを勧める。
梨央は素直に頷き、腰掛ける。
ややあって、その隣に月城が座る。
二人は言葉少なに月を見上げた。
…あの夜のようだ…。
しかし、あの夜からもう2年の月日が流れてしまった…。

「…月を眺めながら、梨央様のことを考えていました」
「…え?」
梨央は月城を見上げる。
月の光に照らされた月城の横顔は、近寄りがたいほどに美しい。
「初めてお会いした時のことを…。旦那様の腕の中に抱かれた梨央様は、お伽話の中でしか存在しないお姫様のようにお美しく清らかで…私は一眼で心を奪われました。このお方に生涯お仕えしよう、このお美しいお方をお護りする為ならなんでもしよう…例え、この命に代えても…と、心に誓ったのです」
月城はゆっくりと梨央を見下ろし、微笑んだ。
「…おめでとうございます。梨央様」





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