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月の川 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第6章 あの月の頂で
翌朝、朝食の間で席に着いたのは伯爵が先であった。
梨央は少し遅れて部屋に入り、いつも通りに伯爵と抱擁を交わし、頬にキスをした。
梨央はなぜか今朝はやや濃い目に化粧をし、夾竹桃色の春らしいドレスに身を包んでいた。
朝の光の中で見る娘の美しい姿に、伯爵は目を細める。

いつも通り和やかな静寂の中、朝食が始まる。
梨央がナプキンを丁寧に膝の上に置きながら口を開いた。
「…お父様。お話があります」
伯爵は薄いトーストにバターを塗る手を止め、柔かな目をして梨央を見る。
「何だね?」
梨央は伯爵を見つめ、静かに告げる。
「私、縣様のプロポーズをお受けいたします」
オレンジジュースのガラスのピッチャーを持ち上げようとした月城の手が一瞬、空を掴みしかしすぐに落ち着いて持ち直した。
伯爵の後ろに控えていた狭霧が艶めいた瞳から笑みを消し、月城を見つめた。
伯爵はバターナイフを皿に置き、顎の前で両手を組んだ。
「…よく考えたのだね?」
「はい。…よく考えました。縣様は私を変わらずにずっと愛してくださり、私が成長するのを優しくお待ちくださいました。…私のような未熟な娘に…勿体無いくらいに素晴らしい方です」
梨央は背筋を伸ばし、伯爵を真っ直ぐ見つめる。
「…梨央は、礼也君を愛しているのか?」
穏やかな微笑を浮かべ、梨央は頷く。
「お慕いしています。そしてご尊敬申し上げております。…これからもっと縣様を知って、愛を深めたいと思います」
伯爵は優しく微笑み、頷いた。
「それなら私が言うことは何もないな。
…礼也君は立派な青年だ。梨央を託すことに一抹の不安もない。…幸せになりなさい。私の愛する可愛い梨央」
梨央は涙ぐみ、綺麗な指先で涙を拭う。
「…お父様…」
伯爵はしみじみとした雰囲気を変えるように、明るく下僕長の大を呼ぶ。
「朝食が済んだら、手紙を書く。済まないが、後ほど松濤の縣邸に届けてくれないか」
「はっ。かしこまりました」
狭霧がいつものように妖しい笑みを浮かべた。
「旦那様もお人がお悪い。電報を打って差し上げた方が速いですよ」
伯爵は肩をすくめ、梨央にウィンクしてみせた。
「大事な宝物の梨央との結婚を許すのだ。…少しくらい焦らしても良かろう」
「…お父様ったら…」
梨央は初めて、明るく笑った。
月城はその様子を、離れた壁際で控えめに見つめ、そして寂しげに微笑んだ。







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