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月の川 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第6章 あの月の頂で
縣の元に下僕長の大が使いに行ったその数時間後、玄関ホールは慌ただしい喧騒に包まれた。
一階の昼食の間でカトラリーの指示をしていた月城は不審に思い、ホールに向う。
「あ、縣様…!き、今日こそ私が旦那様にお取次いたしますので…!お待ちください!」
大が慌てて縣に追いすがる。
「いや、いい。大丈夫だ」
忙しなくホールに駆け込んで来た縣は、上質なフランネルのジャケットを羽織り相変わらず洒落たスタイルだが、その表情はまるで少年のように緊張と高揚に包まれていた。
「縣様、いらっしゃいませ」
月城は穏やかに微笑み、お辞儀して迎える。
「ああ、月城…」
ほっとしたような笑みを漏らす。
「梨央様のお部屋にご案内いたします」
心得たように告げると、縣は
「ありがとう。…いや、いい。…いささか礼は欠くが、私が自分でお訪ねしたい。…すまないね」
縣のこんなにもそわそわと落ち着かない様子を見たのは初めてだ。
月城は微笑ましく思いつつ、静かに頷いた。
縣は長い脚で一気に大階段を駆け上がる。
そして階上の廊下に着くと、叫びながら梨央の部屋に向かう。
「梨央さん!梨央さん!」
まるで初恋を知った少年のようだ。
程なくして、自室でピアノの練習をしていたらしい梨央が姿を現した。
突然目の前に現れた縣に驚く梨央に、縣は喜びを身体で表現するように、両手を広げて笑ってみせた。
梨央は、恥ずかしそうに微笑むとゆっくりと縣に近づく。
「縣様…」
「梨央さん…!私は…感激で胸が一杯です…。また取次もなく伺ったご無礼をお許しください」
こんな時でも紳士らしくきちんと詫びる縣に、温かい気持ちが湧き上がる。
梨央は首を振る。そして、微笑みながら縣の前髪に優しく手を伸ばす。
「…お髪が乱れておいでだわ」
縣は照れながら、髪を直す梨央を見つめる。
「…余りに嬉しくて…伯爵のお手紙を拝見してから、駆け出してしまいました」
「…縣様…」
縣は梨央の手を取り、愛しげにそっとくちづける。
「本当に嬉しい時には言葉にならないものなのですね…何と言ったら良いのか…!」
初めて聞く不器用な縣の言葉に、梨央は優しく微笑んだ。
「何も仰らないで…。縣様のお顔を拝見するだけで、お気持ちは伝わりますわ」
「梨央さん…!」
感極まった縣が、梨央の肩を引き寄せる。
…と、その時…。
一階の昼食の間でカトラリーの指示をしていた月城は不審に思い、ホールに向う。
「あ、縣様…!き、今日こそ私が旦那様にお取次いたしますので…!お待ちください!」
大が慌てて縣に追いすがる。
「いや、いい。大丈夫だ」
忙しなくホールに駆け込んで来た縣は、上質なフランネルのジャケットを羽織り相変わらず洒落たスタイルだが、その表情はまるで少年のように緊張と高揚に包まれていた。
「縣様、いらっしゃいませ」
月城は穏やかに微笑み、お辞儀して迎える。
「ああ、月城…」
ほっとしたような笑みを漏らす。
「梨央様のお部屋にご案内いたします」
心得たように告げると、縣は
「ありがとう。…いや、いい。…いささか礼は欠くが、私が自分でお訪ねしたい。…すまないね」
縣のこんなにもそわそわと落ち着かない様子を見たのは初めてだ。
月城は微笑ましく思いつつ、静かに頷いた。
縣は長い脚で一気に大階段を駆け上がる。
そして階上の廊下に着くと、叫びながら梨央の部屋に向かう。
「梨央さん!梨央さん!」
まるで初恋を知った少年のようだ。
程なくして、自室でピアノの練習をしていたらしい梨央が姿を現した。
突然目の前に現れた縣に驚く梨央に、縣は喜びを身体で表現するように、両手を広げて笑ってみせた。
梨央は、恥ずかしそうに微笑むとゆっくりと縣に近づく。
「縣様…」
「梨央さん…!私は…感激で胸が一杯です…。また取次もなく伺ったご無礼をお許しください」
こんな時でも紳士らしくきちんと詫びる縣に、温かい気持ちが湧き上がる。
梨央は首を振る。そして、微笑みながら縣の前髪に優しく手を伸ばす。
「…お髪が乱れておいでだわ」
縣は照れながら、髪を直す梨央を見つめる。
「…余りに嬉しくて…伯爵のお手紙を拝見してから、駆け出してしまいました」
「…縣様…」
縣は梨央の手を取り、愛しげにそっとくちづける。
「本当に嬉しい時には言葉にならないものなのですね…何と言ったら良いのか…!」
初めて聞く不器用な縣の言葉に、梨央は優しく微笑んだ。
「何も仰らないで…。縣様のお顔を拝見するだけで、お気持ちは伝わりますわ」
「梨央さん…!」
感極まった縣が、梨央の肩を引き寄せる。
…と、その時…。