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月の川 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第6章 あの月の頂で
「…へえ…。縣様は意外に大胆なのですね」
狭霧が書斎の窓のカーテンを少し手繰り、庭園の東屋の椅子に座る二人を興味深く眺めている。
昼食が済むと縣は早々に二人きりになりたいとばかりに、梨央を庭園の散歩に誘った。

伯爵は書き物をしながら眉を上げ、わざと不機嫌そうに釘を刺す。
「狭霧、覗き見など悪趣味だぞ。…父親の私ですらできないのに…」
狭霧は悪びれずに美しい笑顔で振り向く。
「旦那様がなさりたくてもなさらないので私が代わりに見張って差し上げているのです。…大丈夫、縣様は紳士ですよ。ね、月城君」
伯爵の郵便物を仕分けしていた月城に話を振る。
月城は、静かに微笑み頷いた。
「…はい。縣様ほどにお優しく上品な紳士はいらっしゃいません」
そっと窓の外を見る。

梨央は白いアフタヌーンドレスに着替えている。
結い上げた髪には白薔薇が飾られ、細いウエストに締められた白いシフォンのリボンが風に揺れている。
それはまるで結婚式の衣装のようだった。
縣が熱い眼差しで、梨央を見つめ何かを語りかける。
梨央は少し恥らうように、しかし嬉しそうに縣を見上げ、笑っていた。
縣が梨央の手を取り、そっとくちづける。
…まるでお伽話の王子と王女だ…。
お似合いだ。
…良かったのだ…これで…。

月城は窓辺から視線を移す。
改めて、伯爵の方に向き直る。
「…旦那様。お願いがあります」
伯爵が書き物から顔を上げる。
「なんだね?」
「明日一日、お休みを頂けますか?」
「構わないが…何処かへ行くのかね?」
「…はい。伊豆の別荘に…。橘さんにお会いしにまいりたいのです」
伯爵は優しく笑った。
「それはいい。私も久しく会っていない。お前が行けばさぞ喜ぶだろう」
「…梨央様のご婚約が整ったことをご報告してまいります」
伯爵は目を細める。
「…梨央の結婚は橘の懸念のひとつであったから、ほっとするだろうな」
狭霧が、音楽のように艶のある声で
「月城君は橘さんを慕っていたね。…橘さんは私には苦虫を噛み潰したようなお顔ばかりだったが、君には優しかったな」
と、可笑しそうに言った。
「はい。私の理想の父親のような方ですから…」
しみじみ呟く月城に
「月城君は橘さんの最高傑作だな。ねえ、旦那様」
狭霧が伯爵に尋ねる。
「ああ。この上もなく…。
ゆっくりしておいで。月城」
伯爵は慈愛に満ちた眼差しで月城に笑いかけた。


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