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月の川 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第6章 あの月の頂で
「…私はずっと後悔していたことがある…」
ぽつりと橘が独り言のように呟いた。
月城は橘を見る。
橘の穏やかだが様々な深い思いを秘めた眼差しが月城を捉えた。
「…お前に、執事はご主人様に恋をしてはならないと言ったことだ」
「…橘さん…。それは…」
月城が思わず、反論しようとするのを橘は静かに制し
「…あの言葉で私はお前を縛ってしまったのではないかとずっと気に病んでいた…。お前が梨央様に惹かれているのを知りながら…」
「…橘さん…」
「私はお前が可愛かった…。だから私はお前に、私と同じ思いだけはさせたくなかったのだ…」
月城ははっとして、橘の言葉を聞き咎める。
「同じ思い…?」
…まさか…橘さん…?
「…もう遥か昔のことだ…。私は梨央様のお母様…伯爵夫人に恋をした…」
橘の横顔に昔を懐かしむ切ないような色が浮かぶ。

「…景子様は今の梨央様と同じお年、16歳で旦那様の元に嫁いで来られた。京都の名門の公家のご出身であられた景子様は、それまで京都のご実家で古めかしい伝統の中お育ちになられていたので、東京の万事西洋風のお暮らしをされる旦那様との生活に馴染めずに戸惑われておられた。
…旦那様はあの通り当時から大変な美男子で、社交家でご婦人方にも人気があったから、新婚とはいえ留守がちで…勿論旦那様なりに奥様に愛情を示されてはおられたのだが、内気でおとなしい景子様はなかなか旦那様にも心を開かれずに塞ぎ込む日が多くなられた…。16歳と言えばまだほんの子供だ。私はなんとか景子様をお慰めしたくて色々と趣向を凝らした。京都のものを取り寄せたり、お好きなお花を庭師に植えさせたり…」
…普段厳格で近寄りがたい雰囲気の執事が、懸命に自分を慰めようとしてくれる…。
景子様はどんなに嬉しかったことだろう…。
月城は思わず微笑んだ。
「…景子様は段々私に心を開いてくださるようになった。…時には悩みを打ち明けたりしてね…。私はただ景子様のお話を黙って伺うだけだったが…それでも景子様は気が晴れたご様子だった。
…時々、二人で温室の花を眺めたり、庭園を散策したり…あの時間は私の人生の中で最も幸せで輝いていた時間だった…」
今より若い橘が、厳格な表情を浮かべつつもどこか照れたような顔で、うら若く美しい伯爵夫人の後ろを歩く姿が思い浮かぶ…。
橘をそっと振り返る伯爵夫人の儚げな笑顔すらも…。
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