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月の川 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第6章 あの月の頂で
橘は静かに続ける。
「…勿論、私と景子様との間に疚しいことなど何もなかった。…それどころか、私は景子様に思いを打ち明けたことなどなかったし…景子様は私を父親のような執事と思っておられたに違いない。景子様は何より旦那様を愛しておられた。旦那様は景子様に対して不誠実な方ではなかったが、結婚後も変わらずに艶福家だった。
…景子様はいつも寂しげでいらした。私は…なぜ旦那様はこんなにもお美しく可愛らしい奥様に寂しい思いをさせるのかと、腹立たしく思ったこともあった。
…私は、景子様にお幸せになっていただきたかったのだ」
「分かります…」
月城は思わず頷いた。
橘が月城に僅かに微笑む。
「…数年が経ち、景子様は梨央様をご懐妊された。
景子様はもとより旦那様がそれはそれは喜ばれて…景子様は本当に嬉しそうにしていらした。
そうして梨央様がご誕生されて、お二人は仲睦まじいご夫婦となられた。私もほっとしたものだった。
…だが、元々病弱だった景子様は梨央様をご出産されるとご体調を崩されがちになり、僅か数年でお亡くなりになってしまった。私は生きる希望を失ったような気持ちだった。…景子様に生き写しの梨央様がおられなかったら…生きていられたのか自信がないほどに…」
「…橘さん…」
まるでつい先ほど、伯爵夫人を失ったかのように橘の顔が悲しみに歪む。
「…景子様は亡くなられる前に、私を呼ばれ私の手を握り、梨央様のことを呉々もと頼まれた…。
景子様の代わりに有り余るほどの愛を与えて欲しいと…。私は、残りの人生全てを捧げてでも梨央様をお護りします…とお約束した。
…景子様はまるで聖母マリアのような慈悲深い笑みを浮かべながら…お亡くなりになられた…」
月城は、橘の孤高に満ちた寂しげな背中の意味が初めて分かった。
橘は時々、幼い梨央を愛しげに抱き上げながらどこか遠くを眺めていた。
…今は亡き最愛の人に想いを馳せていたのか…。
月城の胸は橘を思い、ずきりと痛んだ。
橘は月城の顔を見て、穏やかに話し出す。
「…私はお前に梨央様を託したかった。私は先に老いさらばえてゆく…。若いお前に梨央様を生涯護って欲しかったのだ。私は自己主義な人間だ…」
月城は激しく首を振る。
「いいえ…いいえ!橘さん。私は、あの時橘さんにそう言っていただいて良かったと心から思っております」
「…月城…」
橘は目を見張り、月城を見上げた。

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