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月の川 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第2章 My Fair Lady
翌日の北白川家は朝から慌ただしい雰囲気に包まれていた。
昼食に来客…しかも大切な人物があるということだった。
橘は食器や銀器、クリスタルの選別に余念がない。
月城は下僕長の大と共に客間のセッティングに駆り出されていた。
略式の昼食会なので、明るい客間で気取らずに…ということらしい。
「お客様はどなたなのですか?」
昨夜、確か梨央様が伯爵のご友人と言っていたような…。
円卓テーブルに真っ白なリネンを掛けながら、大が答える。
「縣男爵様のご長男、縣礼也様さ。確かお年は二十歳…かな。縣男爵と旦那様は大学時代のご友人だそうだ。…昨年、旦那様が礼也様を見込んで、梨央様の後見人をお願いされてからは、度々見えられるんだ」
「後見人?」
「旦那様は殆ど外国暮らしだろ?そのご不在の間に、梨央様が心細い思いをされないように、社会的にも精神的にも後ろ盾していただく…ということらしい。…て、言うのは表向きでさ…」
大は声を潜め、月城の耳元で囁く。
「…いずれ、その礼也様と梨央様はご結婚されるんじゃないか…てのが専らの噂さ」
「…え…?」
月城の手が止まる。
…梨央様がご結婚…?
「…まあ梨央様はまだ6歳だし、それはずっと先のことだろうがね。…だが礼也様は男の俺が見てもいい男だし、秀才らしいし、家柄、財産とどれをとっても文句無しな方だしな。…お似合いのお二人かもしれない。今は年の差を感じるが、梨央様が18の時に礼也様は32だろ?…なかなかいい感じなんじゃないか?」
背後から重々しい咳払いが聞こえる。
「…口を動かさずに手を動かしたらどうだね?大」
「うわあ!た、橘さん…」
「白ワインを冷やしておいてくれ。…今日は旦那様もご臨席だから、赤白両方、用意しておいた方が良いだろう」
「は、はい!」
大が慌てて、階下に向かう。
やや動揺しながら、残りのテーブルセッティングをする月城に、橘は淡々と声をかける。
「…今聞いたように、縣様はこの北白川伯爵家にとって大変大切なお客様だ。…くれぐれも粗相のないように」
月城は、橘を見つめ頷く。
「…はい。承知いたしました」
橘は、次の指示を出しに客間を後にした。
…梨央様のご結婚相手かも知れない方か…。
一瞬、胸が痛む。
だがその思いを振り払うように、頭を振る。
…精一杯、おもてなししよう。
月城はそう心に決めて、きびきびと働き出すのだった。
昼食に来客…しかも大切な人物があるということだった。
橘は食器や銀器、クリスタルの選別に余念がない。
月城は下僕長の大と共に客間のセッティングに駆り出されていた。
略式の昼食会なので、明るい客間で気取らずに…ということらしい。
「お客様はどなたなのですか?」
昨夜、確か梨央様が伯爵のご友人と言っていたような…。
円卓テーブルに真っ白なリネンを掛けながら、大が答える。
「縣男爵様のご長男、縣礼也様さ。確かお年は二十歳…かな。縣男爵と旦那様は大学時代のご友人だそうだ。…昨年、旦那様が礼也様を見込んで、梨央様の後見人をお願いされてからは、度々見えられるんだ」
「後見人?」
「旦那様は殆ど外国暮らしだろ?そのご不在の間に、梨央様が心細い思いをされないように、社会的にも精神的にも後ろ盾していただく…ということらしい。…て、言うのは表向きでさ…」
大は声を潜め、月城の耳元で囁く。
「…いずれ、その礼也様と梨央様はご結婚されるんじゃないか…てのが専らの噂さ」
「…え…?」
月城の手が止まる。
…梨央様がご結婚…?
「…まあ梨央様はまだ6歳だし、それはずっと先のことだろうがね。…だが礼也様は男の俺が見てもいい男だし、秀才らしいし、家柄、財産とどれをとっても文句無しな方だしな。…お似合いのお二人かもしれない。今は年の差を感じるが、梨央様が18の時に礼也様は32だろ?…なかなかいい感じなんじゃないか?」
背後から重々しい咳払いが聞こえる。
「…口を動かさずに手を動かしたらどうだね?大」
「うわあ!た、橘さん…」
「白ワインを冷やしておいてくれ。…今日は旦那様もご臨席だから、赤白両方、用意しておいた方が良いだろう」
「は、はい!」
大が慌てて、階下に向かう。
やや動揺しながら、残りのテーブルセッティングをする月城に、橘は淡々と声をかける。
「…今聞いたように、縣様はこの北白川伯爵家にとって大変大切なお客様だ。…くれぐれも粗相のないように」
月城は、橘を見つめ頷く。
「…はい。承知いたしました」
橘は、次の指示を出しに客間を後にした。
…梨央様のご結婚相手かも知れない方か…。
一瞬、胸が痛む。
だがその思いを振り払うように、頭を振る。
…精一杯、おもてなししよう。
月城はそう心に決めて、きびきびと働き出すのだった。