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月の川 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第2章 My Fair Lady
…客間では、和やかな雰囲気で昼食会が始まった。
縣の会話はユーモアに溢れ、伯爵と梨央の両方の興味を引く話題を途切れず自然に切り出してゆく。
伯爵はもちろん、普段人見知りの強い梨央ですら、楽し気に縣と会話しながら食事を楽しんでいる様子に、月城は感銘を受けた。

メインディッシュは鴨肉のロティであった。
その付け合わせの人参のグラッセを梨央が可愛らしい手つきで口に運んだ時に、縣は驚いたように眼を見張った。
「…いつの間に人参を召し上がれるようになったのですか?梨央さん」
梨央は少し自慢気に答える。
「はい!月城が、人参を食べたらうさぎさんとお友達になれるからと教えてくれたのです。それで食べてみたら、美味しかったの」
「…ほう…月城が…」
縣が、壁際にひっそりと待機する月城に眼をやり、好意的な笑みと言葉を送る。
「君は優秀な執事見習いだね。梨央さんの人参嫌いを直すとは、実に素晴らしい」
「…恐縮です…」
「月城!ピーターラビットも人参が大好きだから、梨央のことを好きになってくれるわよね?」
梨央は自分の隣に小さな椅子を置かせ、そこに座らせたうさぎのぬいぐるみを見て無邪気に聞いた。
月城は、わざと感慨深気に答える。
「もちろんでございます。…不思議の国のアリスのうさぎも恐らく梨央様のファンになっているかと…」
「あのうさぎさんも⁈」
梨央の瞳が輝く。
最近の梨央のお気に入りは、ルイスキャロルの不思議の国のアリスの時計を持ったうさぎだからだ。
礼也が明るく楽し気に笑い声を立てる。
「…教養とウィットに富んだ美しい執事見習いは得難い財産ですね。伯爵」
温かい縣の言葉に伯爵も形の良い唇に笑みを浮かべる。
「礼也君に褒められると鼻が高いよ」
月城は恥ずかしそうに俯く。
…縣様はお優しい方だ。
お優しくて、寛大で、偉ぶらず…。
…梨央様の後見人として、相応しいご立派な方だ…。
改めて感じ入りながらも、胸に宿る羨望の気持ちを消すことができない。
…縣様を羨ましく思うこと自体、分不相応なのに…。

月城は、次の魚料理の皿の準備をする為に、さりげなく部屋を出た。








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