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月の川 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第2章 My Fair Lady
月城の心配の通り、梨央はその華奢な手を力なくシフォンのドレスの膝の上に下ろしてしまった。
…梨央様…!
梨央の瞳にみるみる内に水晶のような涙が盛り上がる。
月城の胸がぎゅっと掴まれたように痛くなる。
「…ま、まあ…梨央様…どうしましょう…」
乳母のますみが橘の隣でおろおろし始めた。
…と、その時。
前方のソファで演奏を見守っていた縣が静かに立ち上がり、優雅な足取りでピアノの前に進む。
そして、梨央の左隣の教師用の椅子に座ると、梨央の髪を優しく撫でた。
「…泣かないで、梨央さん。大丈夫、弾いている内に思い出しますよ。梨央さんはいつも通り弾いて下さい。私は低音パートを担当しますから…」
梨央が縣を見上げ、ぐっと泣くのを堪えて頷く。
縣は温かい微笑を浮かべ、
「…では、最初から…」
と、静かにピアノを奏で始めた。
縣のピアノは驚く程上手かった。
梨央の不安げなところをさりげなくカバーし、しかし決して出しゃばらず、梨央を優しくリードする。
弾いている内に、いつもの調子と自信を取り戻した梨央は次第に滑らかに巧みに美しい楽曲を奏で始めた。
伯爵はその様子を満足気に、楽し気に見守る。
使用人達からも安堵と感嘆の溜息が漏れた。
「…縣様は凄いな。…ピアノまでお上手なんだね」
月城の隣の大が感心したように囁く。
「…ええ…本当に…素晴らしいお方です…」
…美しく、優しく、頼もしく…。
こんなに素晴らしいお方がいるだろうか…。
旦那様の目は確かだ。
縣様なら梨央様の全てを託したくなるだろう…。
…全てを…。
月城の胸がちくりと痛む。
…美しく成長した梨央の隣に寄り添う縣の姿…。
容易に想像出来て切なくなる。
…素晴らしいことじゃないか。
梨央様の事を真摯に護って下さる方がこんなに頼もしいお方なのは…。
…例え、将来お二人がご結婚されることになっても…。
月城の胸は再び、切ない痛みに疼く。
…二人のピアノが最後の小節を奏でる。
伯爵が大きな拍手を送る。
「bravo!二人とも素晴らしい!何と絵になる光景なのだろう。感動したよ」
月城も他の使用人と共に拍手を送る。
梨央はほっとしたように、初めて微笑むと縣を見上げ、お礼を述べた。
縣はそんな梨央が愛しくてならないように、微笑み返して梨央を見つめる。
…お似合いのお二人だ…。
月城は胸の痛みを振り払うように、拍手をし続けた。
…梨央様…!
梨央の瞳にみるみる内に水晶のような涙が盛り上がる。
月城の胸がぎゅっと掴まれたように痛くなる。
「…ま、まあ…梨央様…どうしましょう…」
乳母のますみが橘の隣でおろおろし始めた。
…と、その時。
前方のソファで演奏を見守っていた縣が静かに立ち上がり、優雅な足取りでピアノの前に進む。
そして、梨央の左隣の教師用の椅子に座ると、梨央の髪を優しく撫でた。
「…泣かないで、梨央さん。大丈夫、弾いている内に思い出しますよ。梨央さんはいつも通り弾いて下さい。私は低音パートを担当しますから…」
梨央が縣を見上げ、ぐっと泣くのを堪えて頷く。
縣は温かい微笑を浮かべ、
「…では、最初から…」
と、静かにピアノを奏で始めた。
縣のピアノは驚く程上手かった。
梨央の不安げなところをさりげなくカバーし、しかし決して出しゃばらず、梨央を優しくリードする。
弾いている内に、いつもの調子と自信を取り戻した梨央は次第に滑らかに巧みに美しい楽曲を奏で始めた。
伯爵はその様子を満足気に、楽し気に見守る。
使用人達からも安堵と感嘆の溜息が漏れた。
「…縣様は凄いな。…ピアノまでお上手なんだね」
月城の隣の大が感心したように囁く。
「…ええ…本当に…素晴らしいお方です…」
…美しく、優しく、頼もしく…。
こんなに素晴らしいお方がいるだろうか…。
旦那様の目は確かだ。
縣様なら梨央様の全てを託したくなるだろう…。
…全てを…。
月城の胸がちくりと痛む。
…美しく成長した梨央の隣に寄り添う縣の姿…。
容易に想像出来て切なくなる。
…素晴らしいことじゃないか。
梨央様の事を真摯に護って下さる方がこんなに頼もしいお方なのは…。
…例え、将来お二人がご結婚されることになっても…。
月城の胸は再び、切ない痛みに疼く。
…二人のピアノが最後の小節を奏でる。
伯爵が大きな拍手を送る。
「bravo!二人とも素晴らしい!何と絵になる光景なのだろう。感動したよ」
月城も他の使用人と共に拍手を送る。
梨央はほっとしたように、初めて微笑むと縣を見上げ、お礼を述べた。
縣はそんな梨央が愛しくてならないように、微笑み返して梨央を見つめる。
…お似合いのお二人だ…。
月城は胸の痛みを振り払うように、拍手をし続けた。