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月の川 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第3章 月光庭園
縣男爵家は松濤にあった。
周りを深い森に囲まれたさながらヨーロッパ貴族の館のような瀟洒な屋敷…北白川家ほどには及ばないが、礼也の父、縣男爵が爵位を賜った記念に建てた屋敷は素晴らしく豪奢で目を見張るような建物であった。
北白川家のメルセデスが到着すると、玄関前には正装した縣男爵と息子の礼也が並び、北白川伯爵を恭しく迎えた。
縣男爵は伯爵の肩を親しげに抱きながら迎え、愉快そうに談笑しながら重厚な玄関に入る。
中からは、既に集まっている来賓達の賑やかなざわめきや笑い声が伝わって来る。
従者の狭霧が伯爵の後を影のように、しかし優美に付き従う中、月城も緊張した面持ちで歩みだしたその時…
ホワイトタイの正装が見事に決まっている縣礼也が優しく声をかけてきた。
「やあ、月城。久しぶりだね。今宵は我が家にようこそ」
月城は折り目正しく一礼し、礼を述べる。
「お久しぶりでございます。本日は若輩者ながら旦那様の付き添いで伺わせていただきました。どうぞよろしくお願いいたします」
縣は陽気に笑う。
「君は真面目だな。気楽に物見遊山のつもりで過ごしてくれ。
…うちはなにしろ成り上がり貴族だからね。北白川伯爵家のように由緒正しくないので、しきたりもなくてマナーも適当なんだ」
いたずらっぽく目配せする縣だが、成り上がりどころかどこから見ても完璧な貴公子然とした美しさと自信に輝いている。
偉ぶらないのに辺りを払うような気品と威厳がある…縣は月城にとって眩しく、そして羨望の存在だ。
「…とんでもございません。私は田舎者ですので、失礼がないように充分気をつけてまいります」
畏る月城の緊張を解すように肩を叩く。
「梨央さんはお元気かな?」
「…はい…お元気ですが、私だけ縣様の夜会に伺うのはずるいと膨れておられました」
縣はそんな梨央が愛しくてならないという風に笑う。
「可愛いな、梨央さんは…。早く夜会に来られるお年になられると良いな…」
しみじみと遠くを見る。
…梨央様がお年頃になられたお姿を思い浮かべておられるのだろうか…。
美しく成長し、華やかに着飾った梨央の隣に立つ正装した美丈夫な縣…。
容易に想像できてしまう。
…さぞかしお似合いなお二人だろうな…。
月城の胸はちくりと痛んだ。
…また考えても仕方ないことを…。
月城は思いを払うように頭を軽く振り、縣の後を静かに従った。
周りを深い森に囲まれたさながらヨーロッパ貴族の館のような瀟洒な屋敷…北白川家ほどには及ばないが、礼也の父、縣男爵が爵位を賜った記念に建てた屋敷は素晴らしく豪奢で目を見張るような建物であった。
北白川家のメルセデスが到着すると、玄関前には正装した縣男爵と息子の礼也が並び、北白川伯爵を恭しく迎えた。
縣男爵は伯爵の肩を親しげに抱きながら迎え、愉快そうに談笑しながら重厚な玄関に入る。
中からは、既に集まっている来賓達の賑やかなざわめきや笑い声が伝わって来る。
従者の狭霧が伯爵の後を影のように、しかし優美に付き従う中、月城も緊張した面持ちで歩みだしたその時…
ホワイトタイの正装が見事に決まっている縣礼也が優しく声をかけてきた。
「やあ、月城。久しぶりだね。今宵は我が家にようこそ」
月城は折り目正しく一礼し、礼を述べる。
「お久しぶりでございます。本日は若輩者ながら旦那様の付き添いで伺わせていただきました。どうぞよろしくお願いいたします」
縣は陽気に笑う。
「君は真面目だな。気楽に物見遊山のつもりで過ごしてくれ。
…うちはなにしろ成り上がり貴族だからね。北白川伯爵家のように由緒正しくないので、しきたりもなくてマナーも適当なんだ」
いたずらっぽく目配せする縣だが、成り上がりどころかどこから見ても完璧な貴公子然とした美しさと自信に輝いている。
偉ぶらないのに辺りを払うような気品と威厳がある…縣は月城にとって眩しく、そして羨望の存在だ。
「…とんでもございません。私は田舎者ですので、失礼がないように充分気をつけてまいります」
畏る月城の緊張を解すように肩を叩く。
「梨央さんはお元気かな?」
「…はい…お元気ですが、私だけ縣様の夜会に伺うのはずるいと膨れておられました」
縣はそんな梨央が愛しくてならないという風に笑う。
「可愛いな、梨央さんは…。早く夜会に来られるお年になられると良いな…」
しみじみと遠くを見る。
…梨央様がお年頃になられたお姿を思い浮かべておられるのだろうか…。
美しく成長し、華やかに着飾った梨央の隣に立つ正装した美丈夫な縣…。
容易に想像できてしまう。
…さぞかしお似合いなお二人だろうな…。
月城の胸はちくりと痛んだ。
…また考えても仕方ないことを…。
月城は思いを払うように頭を軽く振り、縣の後を静かに従った。