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月の川 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第3章 月光庭園
北白川伯爵の渡英前日には縣を招いての晩餐会が開かれた。
縣は黒い上質な燕尾服にホワイトタイという水際だった貴公子姿が、さながら一枚の絵のようだった。
伯爵は始終和やかに縣との会話を楽しみ、梨央にも優しく話しかけていたが、梨央は最初からずっと俯きがちで縣とは最初の挨拶をしたきり、口を聴こうとしない。
ブルーのシフォンのドレスに髪にも白薔薇を飾り、美しい装いなのに笑顔ひとつない。
余りの愛想のなさに、乳母のますみは縣に詫びる。
「申し訳ありません。縣様。お嬢様は旦那様とのお別れがあまりにお寂しく、数日前からずっとこの調子なのです」
縣は全く気にする様子もなく、むしろ梨央を気遣った。
「良いのです。…暫くお父様にお会いできないのですから…お寂しいはずです。梨央さん、私のことは気になさらないでください。お好きなようになさってくださいね」
その言葉を聞いた途端、梨央はしくしくと泣き出してしまった。
その様子を見ていた伯爵が、穏やかに優しく梨央に向かい両手を広げた。
「…おいで。梨央」
その途端、梨央は伯爵の元に走り寄り、膝の上に飛び乗る。
伯爵は梨央を強く抱きしめ、髪を優しく撫でる。
ますみが伯爵に厳しい声をかける。
「旦那様、まだお食事中です。梨央様をお席にお戻しくださいませ」
「良いではないか。今夜くらい…梨央、泣きたいなら泣きなさい。…でもね、お父様はいつも梨央のことを思っているよ。…愛しい梨央…世界で1番、お前が大事だよ…」
梨央は声を上げて泣き出した。
執事の橘は目を瞬かせ、唇を引き結ぶ。
下僕やメイドも涙をこらえるものが殆どだった。
月城は梨央の泣き声に胸が締め付けられるような思いだった。
縣は、親子2人の濃密な時間を邪魔しないように、暫くしてからそっと口を開いた。
「…伯爵、ご安心下さい。伯爵がご不在の間、梨央さんが決して心細い思いや、不安な思いをされないように私が全力でお護りいたします。…梨央さんも、どうぞ私を頼って、何でも仰って下さいね」
梨央は一瞬泣き止み、首を巡らし縣を見つめた。
伯爵は梨央の髪を撫でながら感謝の気持ちを述べる。
「ありがとう、礼也君。梨央をよろしく頼むよ」
「はい。お任せ下さい」
…そうだ。
縣様こそ、梨央様を全てからお護り出来る方なのだ。
…僕など…何の役にも立たない…。
…何の役にも…。
月城は拳を握りしめ、俯いた。
縣は黒い上質な燕尾服にホワイトタイという水際だった貴公子姿が、さながら一枚の絵のようだった。
伯爵は始終和やかに縣との会話を楽しみ、梨央にも優しく話しかけていたが、梨央は最初からずっと俯きがちで縣とは最初の挨拶をしたきり、口を聴こうとしない。
ブルーのシフォンのドレスに髪にも白薔薇を飾り、美しい装いなのに笑顔ひとつない。
余りの愛想のなさに、乳母のますみは縣に詫びる。
「申し訳ありません。縣様。お嬢様は旦那様とのお別れがあまりにお寂しく、数日前からずっとこの調子なのです」
縣は全く気にする様子もなく、むしろ梨央を気遣った。
「良いのです。…暫くお父様にお会いできないのですから…お寂しいはずです。梨央さん、私のことは気になさらないでください。お好きなようになさってくださいね」
その言葉を聞いた途端、梨央はしくしくと泣き出してしまった。
その様子を見ていた伯爵が、穏やかに優しく梨央に向かい両手を広げた。
「…おいで。梨央」
その途端、梨央は伯爵の元に走り寄り、膝の上に飛び乗る。
伯爵は梨央を強く抱きしめ、髪を優しく撫でる。
ますみが伯爵に厳しい声をかける。
「旦那様、まだお食事中です。梨央様をお席にお戻しくださいませ」
「良いではないか。今夜くらい…梨央、泣きたいなら泣きなさい。…でもね、お父様はいつも梨央のことを思っているよ。…愛しい梨央…世界で1番、お前が大事だよ…」
梨央は声を上げて泣き出した。
執事の橘は目を瞬かせ、唇を引き結ぶ。
下僕やメイドも涙をこらえるものが殆どだった。
月城は梨央の泣き声に胸が締め付けられるような思いだった。
縣は、親子2人の濃密な時間を邪魔しないように、暫くしてからそっと口を開いた。
「…伯爵、ご安心下さい。伯爵がご不在の間、梨央さんが決して心細い思いや、不安な思いをされないように私が全力でお護りいたします。…梨央さんも、どうぞ私を頼って、何でも仰って下さいね」
梨央は一瞬泣き止み、首を巡らし縣を見つめた。
伯爵は梨央の髪を撫でながら感謝の気持ちを述べる。
「ありがとう、礼也君。梨央をよろしく頼むよ」
「はい。お任せ下さい」
…そうだ。
縣様こそ、梨央様を全てからお護り出来る方なのだ。
…僕など…何の役にも立たない…。
…何の役にも…。
月城は拳を握りしめ、俯いた。