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月の川 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第3章 月光庭園
狭霧はふっと月城に視線を戻し、優しく微笑んだ。
しかしその微笑は彼岸の向こうのような、全てを悟りきったような寥々たるものだった。
「…ごめんね、こんな話をして…」
月城は必死に首を振る。
「…さっき、梨央様が旦那様に取り縋りながら泣かれているのを見て、柄にもなくセンチメンタルになっちゃった…」
「いいえ!そんなこと!…なんでも、話して下さい!…わ、私で良かったら…」
「…ありがとう。…亡くなって、教会で恋人と対面して…ずっと側にいたら…遺体を引き取りに来た恋人の両親と会ってね…」
「…はい…」
「恋人の母親に掴みかかられた。…あなたのせいで息子は死んだ!あなたさえ、いなければ…あなたに出会わなかったら、息子は日本で幸せに暮らしていたのに!…て…」
胸が痛くなる。
「…そんな…」
「そうなんだよ。…僕に出会わなければ、あの人は日本で何不自由なく幸せに暮らしていたんだよ…たまたま運悪く僕なんかに出会ってしまったから…異国の地であんな死に方をしてしまった…後悔してもしたりない…」
月城は首を振りながら涙を流す。
「そんなこと!ないです、絶対!狭霧さんは優しくて綺麗ですごく素敵な方です!その恋人の方は絶対、後悔なんてしてない!絶対…絶対!」
顔を覆いながら泣く月城を狭霧は優しく抱きしめる。
「…何で君が泣くの?」
「だって…だって…狭霧さんがすごく哀しそうだから!」
狭霧は月城の頭をまるで兄のように慈しみを込めて撫でる。
「…君は優しいね。…僕が言いたいのはね、君のその真っ直ぐな愛を自分に偽らずに、本当に愛する人に向けてほしいと言うことなのさ」
「…え?」
涙に濡れた瞳を上げて、狭霧を見る。
そこにはいつもの狭霧の優しくて穏やかな眼差しがあった。
「…君は梨央様が好きだろう?」
月城は俯く。
そしてか細い声で答える。
「…好きです…大好きです…貧しい漁村から東京に来て…梨央様にお会いして…驚きました。…こんなにも美しく清らかな…まるで天使みたいな方が現実に存在していることを…あの瞬間から、僕は梨央様に恋をしてしまいました…決して恋してはならない方なのに…!僕はこのままでは執事にはなれません!」
狭霧の温かい手が月城の頬に触れ、そっと持ち上げる。
そして優しく微笑んだ。
「…そうかな?僕はそうは思わない」
「…え?」
月城は瞳を見張った。

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