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第3章 月光庭園

「…梨央様は君を必要としている。必要とされた時に、お側にいて、お護りする…それが姫君を護る騎士の仕事だ。梨央様の信頼を裏切ってはいけないよ」
狭霧の言葉に、最近の梨央の自分を見つめる寂しそうな顔が蘇る。
月城の胸は締め付けられる。
…梨央様…。
しかし…僕は狭霧さんみたいに達観した思いで、梨央様と接することができるだろうか…。
月城の逡巡を見抜いたかのように、狭霧は慈愛のこもった声で励ます。
「君はまだ若い。急に老成する必要なんかないんだ。悩みながらも梨央様をお護りして差し上げて欲しい。君の愛が梨央様を傷つける訳がない…旦那様は君を心から信頼している。旦那様を安心して差し上げてくれ」
月城はゆっくりと顔を上げ、狭霧を見つめる。
「…はい。僕にどれだけの力があるかわかりませんが…梨央様のことは精一杯、僕が命に代えてもお護りいたします」
狭霧はいつもの花のような魅力的な笑顔を浮かべた。
「安心したよ。ありがとう、月城君」

…その美しい指が月城の顎に触れ、わずかに引き寄せられたかと思うと…
狭霧の完璧な彫像のような顔が近づき…月城の唇に唇が重ねられた…。
甘やかな吐息と口付けの感触に月城はふと、催眠術にかけられたかのように目を閉じ、次の瞬間、ぱっと瞼を開き、慌てふためく。
「ちょっ…！さ、さ、狭霧さん！な、な、何をなさるんですか！」
唇を抑えて目を白黒させる月城を、狭霧は心の底から可笑しそうに笑った。
「可愛いなあ…！全く！…本当に君は初心で真っ直ぐで…綺麗な青年だ…」
まだたじろぐ月城の頬に触れ、耳元でそっと囁く。
「君は梨央様に相応しい騎士だ。僕が保証する」
「…狭霧さん…！」
狭霧は、優しい微笑みだけを残して、屋敷の中に入っていった。
…月城は、狭霧の体温とあえかな薫りがまだ残る唇にそっと触れ、いつまでもその場に立ち尽くしていた。