この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
月の川 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第3章 月光庭園
翌朝、北白川伯爵はロンドンへと旅立った。
見送りの為に、玄関には屋敷中の使用人が整列した。
梨央は伯爵に抱きつき、声を殺して涙を流し続ける。
伯爵は強く梨央を抱きしめ、優しくその美しい黒髪を撫でた。
「…梨央。クリスマスには帰るよ。約束する。皆の言うことをよく聞いて、身体に気をつけて良い子で待っていておくれ」
「…お父様…きっとよ?…きっとクリスマスにはお帰りになってね?」
梨央は泣きじゃくりながら繰り返す。
「約束するよ。可愛い私のお姫様。お前を世界で一番愛しているよ、梨央」
伯爵は美しい手で、梨央の滑らかな白い頬に流れる涙を払ってやる。
「お父様!梨央も…梨央もよ!お父様が世界一大好き!」
梨央は切れ長な美しい黒い宝石のような瞳に涙を溜めて、伯爵を見つめる。
「さあ、梨央。笑っておくれ。私は梨央の笑顔が大好きだよ」
梨央は懸命に微笑む。
しかし、涙は頬を伝い、梨央は再び伯爵の胸に顔を埋める。
月城は自分の胸が張り裂けそうに痛むのを感じた。
隣に並んでいる大が鼻を鳴らす。
「…毎回そうなんだけど…俺は梨央様の涙が一番辛いよ…お可哀想でさ…」
他の使用人も一様に貰い泣きをしている。
狭霧が邪魔をしないよう、静かに伯爵に声をかける。
「…旦那様…。そろそろお時間でございます」
「分かった。今行く。…梨央。愛しているよ。毎日お前を思って、手紙を書く。梨央も私に手紙をおくれ。さあ、暫しのお別れだ。キスしておくれ。私の愛する梨央…」
伯爵は梨央を強く抱擁し、頬を差し出す。
梨央は涙を流しながら伯爵にキスをした。
伯爵は梨央をますみに託すと、橘と月城を順番に見る。
「…梨央を頼んだよ。私の代わりにうんと愛してやっておくれ…」
橘は控えめに、しかし力強く頷く。
「承知いたしました。旦那様」
伯爵の目が月城を捉える。
「…はい。旦那様」
月城は伯爵の目を見つめながら真剣に頷いた。
伯爵は穏やかに微笑み、最後に梨央の額に優しく口付けをし、メルセデスに乗り込んだ。
狭霧が伯爵のドアを閉めながら月城に微笑みかけた。
…メルセデスは滑らかに車寄せを出て、次第に遠ざかり、やがて見えなくなった。
梨央はますみに抱かれながら玄関を入る。
月城の前を横切る時、眼差しが交差し…しかし梨央から眼を逸らせた。
…もう遅いのだろうか…。
月城は梨央の背中を切なく見つめ、いつまでも見送り続けた。
見送りの為に、玄関には屋敷中の使用人が整列した。
梨央は伯爵に抱きつき、声を殺して涙を流し続ける。
伯爵は強く梨央を抱きしめ、優しくその美しい黒髪を撫でた。
「…梨央。クリスマスには帰るよ。約束する。皆の言うことをよく聞いて、身体に気をつけて良い子で待っていておくれ」
「…お父様…きっとよ?…きっとクリスマスにはお帰りになってね?」
梨央は泣きじゃくりながら繰り返す。
「約束するよ。可愛い私のお姫様。お前を世界で一番愛しているよ、梨央」
伯爵は美しい手で、梨央の滑らかな白い頬に流れる涙を払ってやる。
「お父様!梨央も…梨央もよ!お父様が世界一大好き!」
梨央は切れ長な美しい黒い宝石のような瞳に涙を溜めて、伯爵を見つめる。
「さあ、梨央。笑っておくれ。私は梨央の笑顔が大好きだよ」
梨央は懸命に微笑む。
しかし、涙は頬を伝い、梨央は再び伯爵の胸に顔を埋める。
月城は自分の胸が張り裂けそうに痛むのを感じた。
隣に並んでいる大が鼻を鳴らす。
「…毎回そうなんだけど…俺は梨央様の涙が一番辛いよ…お可哀想でさ…」
他の使用人も一様に貰い泣きをしている。
狭霧が邪魔をしないよう、静かに伯爵に声をかける。
「…旦那様…。そろそろお時間でございます」
「分かった。今行く。…梨央。愛しているよ。毎日お前を思って、手紙を書く。梨央も私に手紙をおくれ。さあ、暫しのお別れだ。キスしておくれ。私の愛する梨央…」
伯爵は梨央を強く抱擁し、頬を差し出す。
梨央は涙を流しながら伯爵にキスをした。
伯爵は梨央をますみに託すと、橘と月城を順番に見る。
「…梨央を頼んだよ。私の代わりにうんと愛してやっておくれ…」
橘は控えめに、しかし力強く頷く。
「承知いたしました。旦那様」
伯爵の目が月城を捉える。
「…はい。旦那様」
月城は伯爵の目を見つめながら真剣に頷いた。
伯爵は穏やかに微笑み、最後に梨央の額に優しく口付けをし、メルセデスに乗り込んだ。
狭霧が伯爵のドアを閉めながら月城に微笑みかけた。
…メルセデスは滑らかに車寄せを出て、次第に遠ざかり、やがて見えなくなった。
梨央はますみに抱かれながら玄関を入る。
月城の前を横切る時、眼差しが交差し…しかし梨央から眼を逸らせた。
…もう遅いのだろうか…。
月城は梨央の背中を切なく見つめ、いつまでも見送り続けた。