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月の川 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第4章 聖なる贈り物
月城は電報を手のひらに握りしめながら、廊下を歩く。
…梨央様に何とお伝えしよう…。
僕だって梨央様の泣き顔や涙は見たくないのに…。
橘さんはずるい…。
小さく溜息を吐いたその時…
厨房から弾けるような笑い声が聞こえた。
「春!これでいい?もっとかき回す?」
…梨央様の声だ!
月城はそっと厨房の入口から中を覗き見る。
厨房の調理台の前に置いた椅子に乗り、春と一緒にボールの中のものを真剣に泡立て器でかき回す梨央の姿が見えた。
縞のワンピースに白いエプロン。
髪はポニーテールに結っているその姿が可愛らしい。
エプロンは粉まみれだが、梨央は本当に楽しそうだ。
「もう宜しゅうございますよ、梨央様。…あとはこれを型に流し込んでオーブンに入れて焼くだけです」
春が梨央に優しく声をかける。
「そうしたらブッシュドノエルが出来上がるの?」
梨央の弾んだ声。
「はい。梨央様が作られたブッシュドノエルの出来上がりですよ」
「お父様、なんて仰るかしら?」
「旦那様、きっと驚かれますよ。梨央様がケーキをお作りになったと聞かれたら…」
「お父様は明日お帰りになるから、晩餐には差し上げられるわよね?」
「はい。焼き上がったら、クリームやチョコレートや砂糖漬けのチェリーで飾り付けて出来上がりですからね」
「早く明日にならないかなあ…あ!月城!」
梨央がきらきらした瞳でめざとく月城を見つけた。
月城はどきりとしながら、電報をポケットに仕舞う。
慌てて作り笑いしながら、梨央に近づく。
「…ケーキをお作りになられていたのですか?」
梨央は椅子から飛び降り、月城に駆け寄る。
「ええ。お父様に差し上げるの。ブッシュドノエルよ。春に教えて貰って梨央が作ったの!」
「…それは素晴らしいですね」
「お父様が明日お帰りになったら一番にお見せするわ。お父様、ブッシュドノエル、お好きなのよ。きっとうんと喜ばれるわ。そうよね?月城?」
常にないほどはしゃいで喜んでいる梨央を見て、月城はこれから告げなくてはいけない事実がなんとか覆らないだろうかと切なく思う…。
…しかし…。
「…梨央様…」
月城は静かに口を開く。
「なあに?」
梨央の澄んだ無邪気な瞳が月城を見つめる。
「…先ほど旦那様から電報がまいりました」
「お父様から?なんて?」
月城は梨央の瞳をじっと見つめる。
「…旦那様は明日はお着きになれないそうです」
…梨央様に何とお伝えしよう…。
僕だって梨央様の泣き顔や涙は見たくないのに…。
橘さんはずるい…。
小さく溜息を吐いたその時…
厨房から弾けるような笑い声が聞こえた。
「春!これでいい?もっとかき回す?」
…梨央様の声だ!
月城はそっと厨房の入口から中を覗き見る。
厨房の調理台の前に置いた椅子に乗り、春と一緒にボールの中のものを真剣に泡立て器でかき回す梨央の姿が見えた。
縞のワンピースに白いエプロン。
髪はポニーテールに結っているその姿が可愛らしい。
エプロンは粉まみれだが、梨央は本当に楽しそうだ。
「もう宜しゅうございますよ、梨央様。…あとはこれを型に流し込んでオーブンに入れて焼くだけです」
春が梨央に優しく声をかける。
「そうしたらブッシュドノエルが出来上がるの?」
梨央の弾んだ声。
「はい。梨央様が作られたブッシュドノエルの出来上がりですよ」
「お父様、なんて仰るかしら?」
「旦那様、きっと驚かれますよ。梨央様がケーキをお作りになったと聞かれたら…」
「お父様は明日お帰りになるから、晩餐には差し上げられるわよね?」
「はい。焼き上がったら、クリームやチョコレートや砂糖漬けのチェリーで飾り付けて出来上がりですからね」
「早く明日にならないかなあ…あ!月城!」
梨央がきらきらした瞳でめざとく月城を見つけた。
月城はどきりとしながら、電報をポケットに仕舞う。
慌てて作り笑いしながら、梨央に近づく。
「…ケーキをお作りになられていたのですか?」
梨央は椅子から飛び降り、月城に駆け寄る。
「ええ。お父様に差し上げるの。ブッシュドノエルよ。春に教えて貰って梨央が作ったの!」
「…それは素晴らしいですね」
「お父様が明日お帰りになったら一番にお見せするわ。お父様、ブッシュドノエル、お好きなのよ。きっとうんと喜ばれるわ。そうよね?月城?」
常にないほどはしゃいで喜んでいる梨央を見て、月城はこれから告げなくてはいけない事実がなんとか覆らないだろうかと切なく思う…。
…しかし…。
「…梨央様…」
月城は静かに口を開く。
「なあに?」
梨央の澄んだ無邪気な瞳が月城を見つめる。
「…先ほど旦那様から電報がまいりました」
「お父様から?なんて?」
月城は梨央の瞳をじっと見つめる。
「…旦那様は明日はお着きになれないそうです」