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月の川 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第4章 聖なる贈り物
梨央の瞳が驚愕の余り、大きく見開かれる。
「…え?」
「旦那様が乗られる船が嵐で欠航になってしまわれたそうで、先ほど電報が届きました。…残念ですが、明日のクリスマスイブにご帰国は叶わないとのことです…」
梨央の唇が見る見る間に歪み、その美しい瞳に透明の涙が溢れる。
春も息を飲み、梨央を見つめる。
「…梨央様…」
月城は黙りこくる梨央に跪き、微笑みながら小さな手を取る。
「大丈夫です。嵐はじきに止みます。少しお時間はかかりますが旦那様は必ず、ご帰国なさいます。ですから…」
次の瞬間、月城の手が思わぬ勢いで振りほどかれた。
「嫌!お父様がお帰りになれないなんて嫌!」
梨央の甲高い叫び声が厨房に響き渡る。
「…お父様、嘘つき!嘘つき嘘つき!クリスマスイブにお帰りになるって梨央と約束したのに!嘘つき嘘つき嘘つき!お父様なんか…お父様なんか…大嫌い!」
日頃心優しく大人しい梨央の言動と思えぬ態度だった。
誰よりも大好きな伯爵を嘘つきと詰り続ける梨央に、月城は思わず厳しい声で諌めてしまった。
「梨央様!お父様に対して、なんと言うことを仰るのですか!」
梨央ははっと身体を硬くし、唇を噛みしめる。
月城は、思わず出た厳しい自分の言葉に我に還り、慌てて梨央の肩を抱こうと手を伸ばす。
「も、申し訳ありません!言い過ぎました…梨央様、しかし…」
しかし梨央は月城の言葉を最後まで聞かずに、月城の腕を振り切り、厨房を出て行ってしまった。
「梨央様!お待ちください!」
梨央は階段の踊り場で月城を振り返り、睨みつけた。
「来ないで!嫌い…月城も…大嫌い!みんな嫌い!大嫌い!」
そしてそのまま階上に続く階段を、駆け上がってしまった。
「…梨央様…」
…月城も大嫌い!
梨央の言葉が胸に刺さる。
同時に梨央の悲しみが月城の胸にひたひたと押し寄せ、その痛みを増幅させた。
春が慰めるように呟く。
「…お嬢様は、旦那様のお帰りをそりゃあ楽しみにしていらしたからねえ…ショックなのさ…本気じゃないんだよ…」
肩を落とす月城の視野に、廊下に佇む橘の姿が目に入る。
橘はその頑固一徹な眼差しに、悲しみの色が浮かべ、月城に小さく頷いてみせた。
…梨央様…。
月城は階上を見つめ、暫くなす術もなく立ち竦んでいた。
「…え?」
「旦那様が乗られる船が嵐で欠航になってしまわれたそうで、先ほど電報が届きました。…残念ですが、明日のクリスマスイブにご帰国は叶わないとのことです…」
梨央の唇が見る見る間に歪み、その美しい瞳に透明の涙が溢れる。
春も息を飲み、梨央を見つめる。
「…梨央様…」
月城は黙りこくる梨央に跪き、微笑みながら小さな手を取る。
「大丈夫です。嵐はじきに止みます。少しお時間はかかりますが旦那様は必ず、ご帰国なさいます。ですから…」
次の瞬間、月城の手が思わぬ勢いで振りほどかれた。
「嫌!お父様がお帰りになれないなんて嫌!」
梨央の甲高い叫び声が厨房に響き渡る。
「…お父様、嘘つき!嘘つき嘘つき!クリスマスイブにお帰りになるって梨央と約束したのに!嘘つき嘘つき嘘つき!お父様なんか…お父様なんか…大嫌い!」
日頃心優しく大人しい梨央の言動と思えぬ態度だった。
誰よりも大好きな伯爵を嘘つきと詰り続ける梨央に、月城は思わず厳しい声で諌めてしまった。
「梨央様!お父様に対して、なんと言うことを仰るのですか!」
梨央ははっと身体を硬くし、唇を噛みしめる。
月城は、思わず出た厳しい自分の言葉に我に還り、慌てて梨央の肩を抱こうと手を伸ばす。
「も、申し訳ありません!言い過ぎました…梨央様、しかし…」
しかし梨央は月城の言葉を最後まで聞かずに、月城の腕を振り切り、厨房を出て行ってしまった。
「梨央様!お待ちください!」
梨央は階段の踊り場で月城を振り返り、睨みつけた。
「来ないで!嫌い…月城も…大嫌い!みんな嫌い!大嫌い!」
そしてそのまま階上に続く階段を、駆け上がってしまった。
「…梨央様…」
…月城も大嫌い!
梨央の言葉が胸に刺さる。
同時に梨央の悲しみが月城の胸にひたひたと押し寄せ、その痛みを増幅させた。
春が慰めるように呟く。
「…お嬢様は、旦那様のお帰りをそりゃあ楽しみにしていらしたからねえ…ショックなのさ…本気じゃないんだよ…」
肩を落とす月城の視野に、廊下に佇む橘の姿が目に入る。
橘はその頑固一徹な眼差しに、悲しみの色が浮かべ、月城に小さく頷いてみせた。
…梨央様…。
月城は階上を見つめ、暫くなす術もなく立ち竦んでいた。