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月の川 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第4章 聖なる贈り物
「…今年のクリスマスイブはなんだか寂しいわねえ…」
厨房隣の使用人の食堂の椅子に腰掛け、コーヒーを啜りながらメイド長の茅野はしみじみと呟いた。
手作りのクッキーを出しながら春も溜息を吐く。
「全くねえ…。旦那様がお帰りにならないだけでこうも華やかさがないものかねえ…。お嬢様はすっかり塞ぎ込んでおしまいになるし…お気の毒に…」
「春さんのご自慢の七面鳥も、暫くお預けね」
「それは別に構わないんだけどさ。…とにかく、何を作って差し上げたらお嬢様が召し上がって下さるのか、頭が痛いよ…」
春が首を振ったその時、慌ただしい足音と共に、月城と下僕長の大が食堂に駆け込んで来た。
「どうしたの?月城さん。貴方が慌てるなんて珍し…」
月城が茅野の前に立ち、頭を下げる。
「茅野さん!私の一生のお願いです!」
茅野は月城の余りの真剣さにたじろぐ。
「な、なに…?」
月城の眼鏡の奥の端正な眼差しが茅野を捉える。
「…サンタクロースの衣装を作っていただけませんか?」
「へ⁈サ、サンタクロース⁈」
大が山のような赤と白の布を、茅野の目の前のテーブルの上にばさりと置いた。
大がウィンクする。
「俺の実家が日暮里で布問屋やってんだ。これで極上のサンタの衣装ができるぜ」
「茅野さんはご自分でドレスでもなんでもお造りになるほど、お裁縫上手と伺っております。お願いします!夜までになんとかサンタクロースの衣装を作っていただけないでしょうか?」
茅野は月城の真摯な表情を見つめ何かを察知し、優しく微笑んだ。
「…梨央様のためね?」
「…はい!」
茅野は目の前の布の山を見たのち月城を見上げ、静かに呟く。
「…貴方と梨央様ってまるで…」
月城は目を瞬かせる。
「はい…?」
茅野は肩を竦め、
「…まあいいわ。なんでもないわ」
月城は不安そうに茅野を見つめる。
「…あの…茅野さん…」
「いいわよ。梨央様のためだもの。…その代わり…今度、ミルクホールでアイスクリームをご馳走して?」
茅野は悪戯っぽく笑い、布を腕に抱えて立ち上がった。
「は、はい!もちろんです!ありがとうございます!」
春が陽気に手を叩く。
「さあさあ、忙しくなるよ!私は小物を揃えるよ!」
「じゃあ俺は麻袋を探してくるぜ!プレゼントを入れるデカい麻袋がいるだろ?」

賑やかな食堂を廊下から眺め、橘は口元に僅かに笑みを浮かべ執務室に戻って行った。



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