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月の川 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第1章 天使の手のひら
奥の食堂を覗くと、温かい空気といい匂いが溢れ、賑やかな声が聞こえた。
エプロンをつけた太った中年女が目ざとく月城を見つけ手招きする。
「月城さんだね?お入りよ、お腹が空いただろう?」
縦長のテーブルには他にも数人のお仕着せを着た下僕らしき若者と、黒い制服にエプロン姿のメイド達がお喋りしながら食事を摂っていた。
月城は緊張しながら、頭を下げた。
「さあ座って座って。ここでは晩御飯は交代制なんだよ。遠くから来たんだって?疲れたろう?今、食事を持ってくるからね」
料理長らしき中年女はどうやら陽気で世話焼きな性格らしい。
硬くなりながら椅子に座ると、隣のメイドが優しく話しかけてきた。
「私は茅野、ここのメイド長よ。よろしくね」
「月城です。よろしくお願いします」
「あなたが月城さんね。橘さんの後継者。旦那様が北陸まで行って探していらした執事候補さん。噂に違わぬハンサムさんだわ」
メイド達が一斉に笑う。
正面の下僕が手を差し出す。
「俺は大だ。よろしく。帝大推薦入学だって?すげえ秀才さんだ。チップの計算がわからなくなったら教えてくれよ?」
月城はほっとして握手して頷く。
「よろしくお願いします…」
…なんだかみんないい人達みたいだな…。
「あたしは春だよ。ここの料理長さ。さあさあ、みんな、月城さんに御飯を食べさせておやり。…今日はポトフとカボチャのサラダ、パンはブリオッシュ。お代わり自由だからね。たんとお食べ」
春が食事を運んで来た。
…何なんだ?ここは…。
この屋敷は使用人までこんなご馳走を食べるのか?
茫然と湯気の立つ美味しそうな煮込みやパンを見つめる月城に、春は優しく声をかける。
「ここの旦那様はね、良い食事は使用人の労働意欲を向上させると仰って、兎に角美味しい食事を出すようにとお達しがあるのさ」
「旦那様はお優しいし、お嬢様はお可愛らしいし…本当に働きやすい職場よ。さあ、召し上がれ」
月城は震える手でスプーンを握り、ポトフを掬う。
…美味しい…。こんなに美味しいものは生まれて初めて食べた…。
パンを千切って口に運ぶ。とろけるようなバターの味…。弟や妹や…母に一口食べさせてやりたい。
ポトフの皿に水滴が落ちる。
気がつくと月城は涙を流していた。
使用人達がお喋りを止める。
涙を流しながら食事をする月城の肩を春が優しく抱く。
「沢山泣いて沢山お食べ…ハンサムさん」
エプロンをつけた太った中年女が目ざとく月城を見つけ手招きする。
「月城さんだね?お入りよ、お腹が空いただろう?」
縦長のテーブルには他にも数人のお仕着せを着た下僕らしき若者と、黒い制服にエプロン姿のメイド達がお喋りしながら食事を摂っていた。
月城は緊張しながら、頭を下げた。
「さあ座って座って。ここでは晩御飯は交代制なんだよ。遠くから来たんだって?疲れたろう?今、食事を持ってくるからね」
料理長らしき中年女はどうやら陽気で世話焼きな性格らしい。
硬くなりながら椅子に座ると、隣のメイドが優しく話しかけてきた。
「私は茅野、ここのメイド長よ。よろしくね」
「月城です。よろしくお願いします」
「あなたが月城さんね。橘さんの後継者。旦那様が北陸まで行って探していらした執事候補さん。噂に違わぬハンサムさんだわ」
メイド達が一斉に笑う。
正面の下僕が手を差し出す。
「俺は大だ。よろしく。帝大推薦入学だって?すげえ秀才さんだ。チップの計算がわからなくなったら教えてくれよ?」
月城はほっとして握手して頷く。
「よろしくお願いします…」
…なんだかみんないい人達みたいだな…。
「あたしは春だよ。ここの料理長さ。さあさあ、みんな、月城さんに御飯を食べさせておやり。…今日はポトフとカボチャのサラダ、パンはブリオッシュ。お代わり自由だからね。たんとお食べ」
春が食事を運んで来た。
…何なんだ?ここは…。
この屋敷は使用人までこんなご馳走を食べるのか?
茫然と湯気の立つ美味しそうな煮込みやパンを見つめる月城に、春は優しく声をかける。
「ここの旦那様はね、良い食事は使用人の労働意欲を向上させると仰って、兎に角美味しい食事を出すようにとお達しがあるのさ」
「旦那様はお優しいし、お嬢様はお可愛らしいし…本当に働きやすい職場よ。さあ、召し上がれ」
月城は震える手でスプーンを握り、ポトフを掬う。
…美味しい…。こんなに美味しいものは生まれて初めて食べた…。
パンを千切って口に運ぶ。とろけるようなバターの味…。弟や妹や…母に一口食べさせてやりたい。
ポトフの皿に水滴が落ちる。
気がつくと月城は涙を流していた。
使用人達がお喋りを止める。
涙を流しながら食事をする月城の肩を春が優しく抱く。
「沢山泣いて沢山お食べ…ハンサムさん」