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月の川 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第4章 聖なる贈り物
…そしてそれから数日後。
北白川家の玄関ホールのクリスマスツリーも他の部屋の飾りも全てそのままの状態である。
「お父様がお帰りになるまではクリスマスなの」
梨央の言葉に異論を唱えるものはいなかった。

あと数日で大晦日という早朝、月城が梨央の部屋の暖炉に薪をくべていると、窓に額を押し当てじっと遠くを見つめていた梨央が小さく叫んだ。
「…お父様の車!」
月城は素早く窓辺に近づく。
「…本当ですか?…私には見えませんが…」
「本当よ!間違いないわ!」
梨央は上擦った声で答えると、部屋を飛び出した。
「梨央様!お待ちください!」
月城が慌てて梨央を追いかける。

梨央が廊下を駆け出し、大階段の上に着いた時…
玄関ホールの扉が開いた。
慌ただしく駆け込む足音…。
「…梨央!梨央!」
大階段の上から見下ろすと…
北白川伯爵が息急き切った様子で佇んでいた。
…いつも優雅で決して取り乱した様子など微塵も見せない伯爵が…髪は乱れ、洒落た外套の肩には雪が降りかかっている…。

そんなことなど気にもせず、大声で梨央の名を呼ぶ。
梨央は階段の手摺を握りしめながら、伯爵を見つめて涙を零す。
「…お父様…お父様…!」
伯爵は大階段に近づきながら両手を広げる。
「梨央!すまなかったね。遅くなってしまって…」
「…お父様!」
梨央は転げ落ちるように階段を駆け下り、そんな梨央を伯爵は素早く踊り場で抱きとめる。
「…お父様…!お会いしたかった!お父様…!」
梨央は伯爵にしがみつき泣きじゃくる。
「私もだよ。…ずっと梨央のことを考えていた…私の愛しい梨央…愛しているよ…」
伯爵は二度と離したくないかのように梨央を強く抱きしめる。
「…寂しい思いをさせてすまなかったね…」
梨央の涙に濡れた白い頬を愛しげに撫でる。
「…大丈夫…眼鏡をかけたサンタさんが来てくれたから」
梨央は天使のように無邪気に笑う。
伯爵は、階上で二人を見守る月城を見上げ、微笑んで頷く。
月城は伯爵に恭しく一礼する。
頭を上げたときに、伯爵より遅れて足早に入ってきた狭霧と目が合う。
狭霧は相変わらず魅惑的な眼差しで月城に微笑み、手を挙げた。
「メリークリスマス、月城くん」
月城は狭霧に笑顔で応え、抱擁を交わし合う伯爵と梨央を穏やかに見つめ、そっと独りごちた。
「メリークリスマス…僕の愛する方々…」
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