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月の川 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第5章 Fly me to the Moon
梨央が軽井沢の別荘に出発する日を一週間前に控え、北白川伯爵家はその準備に慌ただしさを増していった。
梨央は毎年、7月から8月いっぱいまでの約2ヶ月間を軽井沢で過ごすことが慣わしになっている。
それに伴い屋敷の使用人達も何名か軽井沢に移動するので、それもあり階上も階下も準備に大わらわなのである。

しかも今年は、軽井沢へ付き添う執事は月城だけと橘から言い渡された。
「今年はご帰国された旦那様がこちらでもお人を招いたり夜会に出られるご予定が多々あるのだ。従って軽井沢の別荘にはお前1人で行ってもらうことにした」
橘が執務机の前に座り、重々しく月城に告げる。
「…私1人ですか…」
第二執事に昇格したとは言え、1人で2ヶ月間別荘を取り仕切るのはいささか心細かった。
そんな月城に橘は珍しく優しく声をかける。
「…お前の執務ぶりは私が一番評価している。何の懸念もない。…いささか足腰が衰えてきた私に比べ、闊達に動けるから、お若いお嬢様や別荘のお若い来客の方々をおもてなしするには似つかわしい」
「そんな…。橘さんはまだまだお若いです」
慌てて首を振る月城に橘はにやりと笑う。
「もちろんまだ体力に自信はあるがね。…しかし…」
やや淋しげな微笑を浮かべ、立ち上がる。
「…私もそろそろ引き際を思案する時が、近づきつつあるのだよ」
「橘さん!…そんなことを仰らないで下さい。若輩者の私に沢山のことを教えて下さい」
真剣に食い下がる月城の肩を叩き
「心配するな。今すぐという訳ではない。お前にはまだまだ教えなくてはならないことがあるからな」
「はい!私はいつまでも橘さんとこのお屋敷で働きたいのです」
月城にとって橘はいわば理想の父親のような人だった。
厳しく強く賢く思慮深く…そして優しい…。

橘も月城を息子を見るような慈愛深い眼差しで見つめた。
そしてやや雰囲気を変えるように口を開く。
「…それはそうと、今年の夏は別荘に光様がご滞在になる」
「はい。梨央様がそれはそれは楽しみにされておいででした」
橘は言葉少なに忠告する。
「…光様は大層お美しいが、なかなか一筋縄ではいかないお嬢様だ。…純粋培養な梨央様にはいささか毒が強すぎるきらいがあるやも知れぬ。…月城、梨央様のお側によく付いて差し上げてくれ…」

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