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月の川 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第5章 Fly me to the Moon
『…光様のお母様は梨央様の亡くなられたお母様の妹様で、麻宮侯爵家のご長女でいらっしゃる。お父上の麻宮侯爵は横浜と神戸と欧州でも手広く貿易商をされている。光様はお小さい頃から自由闊達にお育ちになり、女子学習院中等科を途中まで通われたが、自由奔放なご性格と校風が合わずに、パリの寄宿舎付きの高校に留学された。…梨央様とはそれ以来お会いになってはおられないが、人見知りされる梨央様が唯一お小さい頃から心を許されている数少ないご友人でありお従姉妹であらせられる。麻宮侯爵家からは軽井沢の滞在費として過分な費用を戴いてしまっているので、呉々も失礼や粗相のないように…。
と、同時に…光様からは目を離さないように。
こう申し上げては何だが…あのお方は何をしでかすか分からない危うさがあるお方だ。
…梨央様のように素直で人を疑うことを知らない無垢な方とは正反対のような…。
いや、いささか言葉が過ぎたやも知れぬ。
…とにかく、月城。梨央様はお前に任せたからな。
しっかりとお守りするように…』
…東京で橘に念を押された言葉が胸に蘇る。
「光お姉様のお車はまだかしら?そろそろお着きになってもよろしいのに…」
軽井沢の別荘の車寄せで、梨央はそわそわと背伸びをして門の外を眺める。
月城はハッと我に帰る。
「…もう間もなくでしょう。…汽車は定刻に着いておりますゆえ…」
「そうよね。…ねえ、月城。このドレス、子供っぽくないかしら?」
梨央は自分の洋服を見下ろす。
涼し気なペパーミントグリーンのドレスは細かな白い小花が散らされ、ハイウエストで蝶結びに結ばれたリボンはエメラルドグリーン。
ふんわりと膨らんだ袖が、華奢で白い腕をより一層優美に見せている。
髪は最近は高い位置で結い上げ、根元に生花を飾るのがお気に入りらしい。
今日の花は雛菊…。
その白い楚々とした花は、可憐な梨央によく似合っている。
なによりその儚気な美貌は、日ごとに冴え冴えと輝くばかりであった。
「…大変お綺麗です。…梨央様」
月城は優しく微笑みながら答える。
梨央がやや恥じらいながら笑い返す。
…と、その時、鉄条の門扉が開く重々しい音が響き、一台のロールスロイスが音もなく滑らかに車寄せに滑り込んできた。
「…光お姉様のお車だわ!」
梨央が興奮したように小さく叫ぶ。
…車が止まり、待ち構えていた下僕が恭しく後部座席のドアを開ける。
と、同時に…光様からは目を離さないように。
こう申し上げては何だが…あのお方は何をしでかすか分からない危うさがあるお方だ。
…梨央様のように素直で人を疑うことを知らない無垢な方とは正反対のような…。
いや、いささか言葉が過ぎたやも知れぬ。
…とにかく、月城。梨央様はお前に任せたからな。
しっかりとお守りするように…』
…東京で橘に念を押された言葉が胸に蘇る。
「光お姉様のお車はまだかしら?そろそろお着きになってもよろしいのに…」
軽井沢の別荘の車寄せで、梨央はそわそわと背伸びをして門の外を眺める。
月城はハッと我に帰る。
「…もう間もなくでしょう。…汽車は定刻に着いておりますゆえ…」
「そうよね。…ねえ、月城。このドレス、子供っぽくないかしら?」
梨央は自分の洋服を見下ろす。
涼し気なペパーミントグリーンのドレスは細かな白い小花が散らされ、ハイウエストで蝶結びに結ばれたリボンはエメラルドグリーン。
ふんわりと膨らんだ袖が、華奢で白い腕をより一層優美に見せている。
髪は最近は高い位置で結い上げ、根元に生花を飾るのがお気に入りらしい。
今日の花は雛菊…。
その白い楚々とした花は、可憐な梨央によく似合っている。
なによりその儚気な美貌は、日ごとに冴え冴えと輝くばかりであった。
「…大変お綺麗です。…梨央様」
月城は優しく微笑みながら答える。
梨央がやや恥じらいながら笑い返す。
…と、その時、鉄条の門扉が開く重々しい音が響き、一台のロールスロイスが音もなく滑らかに車寄せに滑り込んできた。
「…光お姉様のお車だわ!」
梨央が興奮したように小さく叫ぶ。
…車が止まり、待ち構えていた下僕が恭しく後部座席のドアを開ける。