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月の川 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第5章 Fly me to the Moon
月城は別荘の階下の橘の執務机で今日の日報をつけていた。
…梨央様はもうおやすみになったかな…。
今日は随分はしゃいでいらしたから…明日、お熱など出されないと良いのだが…。
梨央に想いを馳せ、微笑む。

…と、そこにノックの音が響き、茅野が部屋に入ってきた。
「…お疲れ様。光様は滞りなくおやすみになったわ」
「茅野さん。ありがとうございます」
月城は茅野に笑いかける。

別荘には月城、茅野、大、新入りの下僕とメイドが一名ずつ、副料理長の花が配された。
家政婦兼乳母のますみと料理長の春は麻布の屋敷に多くの来客を迎える予定がある為、残って勤務することになったのだ。

「春が来ないと美味しいお料理が食べられなくて、寂しい」
と、嘆きながらも
「でも月城がいれば梨央は大丈夫。月城がいれば怖いことなどなにもないもの」
と、月城に甘えてみせた。
最近の梨央の少しずつ大人びてきた眼差しには、月城は時々どきりとさせられる。
…心臓に悪いな…。
月城はやや苦笑いしながら、釘をさす。
「恐れながら、梨央様。…ますみさんがいらっしゃらないからと言って私が梨央様を甘やかせることはありませんよ」
梨央はちらっと赤い舌を出して
「分かっているわ!でも月城はそんなに煩いことを言わないものね?ね?」
月城の腕に梨央の華奢な腕が絡む。
白薔薇のあえかな薫りと共に梨央の体温が密着し、月城ははっとする。
…随分背がお高くなられた…。
長身の月城の頭一つは下だが、しかしもう屈んで話す必要はない。
…梨央様は日に日にご成長されている。
大きく…そして何よりお美しく…。

回想している月城の耳に茅野の声が届く。
「…そう言えば、光様に月城さんのことを色々聞かれたわ」
「…私のこと…ですか?」
茅野は悪戯っぽく笑う。
「ええ。…随分若くて美しい執事ね、て…。パリ帰りの美少女も貴方のようなハンサムさんは気になるのね」
月城は照れたように俯く。
「やめてください…あのような洗練されたお嬢様が私などに興味を持たれるはずがない…」
「光様は本当に現代的で進歩的なお嬢様ね。それにどこか神秘的だし…梨央様はすっかり虜のようよ…じゃ、おやすみなさい」
茅野は月城に微笑むと部屋を退出した。

…光様…か…確かに捉え所のない方だ。
月城は謎めいた美少女を思い浮かべたが気を取り直し、再び日報に筆を走らせるのだった。

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