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背徳のディスタンス
第1章 プロローグ

 すでに濡れていた。ぬめった温かい液体が、指先に絡みつく。ぞくりと体中に電流が走り、小さく声が漏れる。

(ダメ……なのに)

 社内でこんなこと。まだ数人とはいえ隣には人も残っている。もし、声を聴かれたら。この談話室に人が来て、痴態を見られでもしたら。
 きっと自分は、もうここに勤めていられない。そんなことは重々わかっているけれど、どうしてもこの背徳的な行為をやめられずにいた。

(今日だけ……これで最後だから)

 何度も自分に言い聞かせる。警鐘を鳴らす理性を押しのけ、快楽が奈々の体を蝕んでいく。

「あ……んんっ」

 直接触った。親指の腹でクリを撫でると、それだけでたまらなかった。漏れそうになるいやらしい声を、もう片方の指を噛むことでどうにか抑える。
 びくびくと、体が震えた。さらに股間に添えた手の動きを速める。

(あ……イク……っ)

 絶頂の波が押し寄せてきた、その時だった。

「堀内……先輩?」

 廊下側の入り口から聴こえたその声に、奈々は文字通り飛び上がりそうになった。
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