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背徳のディスタンス
第1章 プロローグ
慌てて下腹部から手を離し、淫らに捲れ上がったスカートを直した。
……もう、手遅れだろうけれど。
「誰?」
薄暗い室内で、声の方を振り返る。
「う、嘘……」
そこにいたのは、自分より五つ下の後輩、日野崎望(ひのざきのぞむ)だった。入社一年目、自分が教育係を任された、新人くん。気立てが良くて愛想もあり、仕事の覚えもいいと評判の有望株だった。
「なんで、日野崎がここに……」
自分の置かれた状況も忘れ、呆然と奈々は問いかける。だって、とっくに帰ったはずなのに。
「先輩今、何してたんです?」
いつもの人懐っこい話し方とは違う。どこか意地悪な響きがあった。
はっとして、奈々は言葉を詰まらせる。血の気が引くような思いだった。
「……なんでもないわよ。ちょっと業務が終わらなくて、休んでただけで……」
「こんな暗い部屋でですか?」
彼がゆっくりと近付いてくる。奈々は動けずに、その場で固まっていた。
「……今、何してたんです? 先輩のいやらしい声聴こえてましたよ?」