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新月の闇 満月の光
第9章 流転の兆し
「流石~、元、一課営業本部長」
社長の揶揄が始まった。
茶化しているのが丸分かりの態度に俺は、抗議の声を上げる。
「阿呆か。茶化すな。実力の訳が無かろう」
苦虫を噛み潰したように、表情を変える。
「嫌々、お世辞では無いぞ。お前は、世辞だと思っているようだが、省吾や重役達の目は、節穴では無い。お前は、あの父の子で、私の弟だ。いくらお前に、母方の血が色濃くあっても、確実に父の血は引いているんだ。経営に秀でた力が、無い訳が無いんだよ」
いつになく饒舌に語る社長の瞳が真剣その物の光に満ちて居る。
会話に口を挟む事が憚れる程に、社長は、姉の顔で言い募った。
「省吾は、私らに子供がいないから、望めないから、お前にかけたいだけなんだ。何時か、解ってやって欲しい」
「解って欲しい………… か …… 。それは、義兄次第だな…… 。」
俺は、そう呟いて、「これ以上、話が無ければ戻るぞ」と言ってこの場を辞そうとした。
俺の言葉に、社長は、手を振って許可を与える。
去り際の俺に、社長は、「由芽はどうした」と聞いて来たから、昼まで休みだと、簡潔に答えておいた。
「なぁ、もう少し、愛想良くしても、罰は当たらないと思うぞ。真紘。」
扉を閉める寸前、そんな言葉が聞こえて来たが、気に留める事無く俺は、重厚な扉を閉めきった。