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新月の闇 満月の光
第7章 ルビーとエメラルド
「御明察。と、言うか、まぁ、この状況で解らなければ、只の馬鹿だけどな………… 」
言葉に絹など着せない。
何処までも辛辣に。
濁す事無くはっきりと。
言わなきゃこの男、只の筋肉馬鹿だから。
俺がそう思う程に、合坂と言う男、高身長でマッチョだ。
その身体に似合わぬ甘いマスクを付けた顔を持つ頭部が身体の上に乗っている。
如何せん、バランスが悪い。
けれど、コレが奴に不動の人気を与えているのだから、世間とは、可笑しなモノだ。
『キモカワイイ』と、言う言葉の延長線上に、彼のこのアンバランスさが有るのだとしたら、俺は迷わず納得するだろう。
などと、思考を巡らせている。
「合坂 一。あんた、このCMの企画書、ちゃんと目を通して来たのかよ……。その演技さ、コンセプト理解してやってんの? 」
「あ? あんた、誰に向かって、そんな偉そうな口叩いてんの? 」
合坂の言葉が、俺の予想を上回る。
ちらりと横目で社長と、監督を見ると、ぽけっと開いた口が塞げなく成っている。
これほど、我が儘で傲慢な男だったとは、俺自身、予想外だ。
俺は、合坂の言葉を完全無視して、モニター横から撮影現場に足を向けた。
途中、上着のポケットからコンタクトケースを取り出して、黒のカラコンを直し、ドリンクの置かれたテーブルに置いた。
そして、素の瞳で奴を睨み付けた。
勿論、己の瞳の強さを理解していながら。
合坂は、驚いた顔で俺を見ている。
どうせ、カラコンと脱色で出来た紛い物だと思っていたんだろうな。
俺にとって、黒髪、黒目が紛い物だとも思わずに。
そして俺は、頭に手をやると、するりとカツラを引き抜いた。