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新月の闇 満月の光
第7章 ルビーとエメラルド

義兄の追加注文により、三人三様のスチール写真を取る事になり、もう少し時間を裂く羽目になった。
義兄の持ってきた、豪華なルビーと、エメラルドも『Yume』と一緒に写真に取られた。
はあぁ。
さっきから溜め息しか出ない。
当たり前だ。
さっさと撮影を終わらせて、ホテルにチェックインする予定が、完全に狂った。
今、完全に、夜っ!
っで持って、何故か居酒屋、奥の座敷を貸し切りって………………。
ホテルに行きたい。
結芽連れ込む予定が………、未定になりそうな勢いで、飲んだくれが4名。
姉夫婦に、合坂、そして………グラス一杯のカクテルに、呑まれてしまった俺の結芽。
監督もちびちびと、日本酒の杯を傾け、始終にこやか、大仏顔。
撮影が押しに押して、漸く一条の光が見えた時、腹が減ったと、ピーチクパーチク鳴く雛鳥が二羽。
姉だけならいざ知らず、合坂、お前もか。
────あぁ、コイツ等、簀巻きにして東京湾に捨ててやりたい────
「は…あぁぁ……………… 」
ここに来て何度目の溜め息だろう。
「先輩、溜め息ばかりですね。幸せ、逃げちゃいますよ」
俯く俺の顔を覗き込んで、木坂が言った。
「ふっ…………そんなもの、逃げまくられて残っちゃいねぇよ」
「そんな事無いっすよ。先輩には、絶対逃げないもんが有るっす」
拳を握って力説する木坂を、俺はじっと見た。
「結芽さんっす。あの人は、決して先輩から離れて行ったりしませんから。居なくなったりしませんって」
やけに言い切れる木坂が、羨ましい。
とうの昔に、俺が失ったもののひとつだ。
人を信じる心。
真っ先に、俺から零れて行った物だ。
そして、一番無くしてはならない物だった。

