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Vesica Pisces
第9章 太陽は静寂を焦がす
いつもは震える目覚ましで起きる。

特に冬は朝が訪れるのが遅く、陽射しを待っていては時間ばかりが過ぎてしまう。

今朝は違う。

透がベッドを出て行く気配で目が覚めた。

シャワーを浴びに行く背中を見送って1人布団を搔き抱いて喜びを噛み締める。

「ギリギリまでいれば?」

透の申し出を断わって支度を済ませると、始発に合わせて空港へ向かった。

搭乗開始まで40分ほど、コーヒーとサンドイッチで朝食を済ませた。

『昨夜の電話…怒られたりした?』

「なわけねーじゃん、次の仕事の話」

『次…いつ帰ってくるんですか?』

じろっと目で訴えられて敬語を外す。

「月末くらい」

月末まで10日ほどだ。

「次の仕事が間髪入れずに依頼がなかったら、だからな」

笑顔を広げてしまったあとにそんな事を言われても、すぐ隠せるわけもなくとりあえず頷いた。

「そんなに俺の事好きなんだ?」

『え?』

「すっげえ好きって顔に書いてあるから」

その指摘は本当かもしれないと頬を押さえる。

「そんな好きなら早く言えよな」

『そんなに…好きじゃないです』

悔しくて唇を尖らせてみせるが、主導権はもう透にあった。
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