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Vesica Pisces
第12章 太陽は静寂を愁う
伽耶の手が、一瞬なんて言ったかわからなかった。

『透さんとの先のことは考えてません』

「は…お前何言ってんの?」

猛に伝えるのも忘れて、伽耶を見つめ返す。

『今、一緒にいたいだけだよ』

笑顔を浮かべた伽耶に感じた違和感。

『なので、挨拶なんてお構いなく』

猛は胸ポケットから名刺入れを出すと、一枚抜き取り何かを書き込んで伽耶に差し出した。

「何かあればそこの番号に」

伽耶はそれを両手で受け取った。

「ブランチだろ?」

促されて取り出したサンドイッチに、伽耶は満面の笑顔を見せて頬張った。

猛の仕事の話から伽耶の仕事の話になり、会社勤めをしていない人間はそれがどういう事なのかわからない。

でも、伽耶が猛とにこにこしながら話す様子を見ていると、それはそれで嬉しくもある。

笑顔を向ける相手が猛なのが癪だけど。

共通の話題で盛り上がる二人に、聞こえるように舌打ちをした。

「もーいいだろ?結局何しに来たんだよ?」

「いつもの出張のついでだ」

さらっと言ってのけた猛に、伽耶はふふっと口元を押さえた。

クソッ…徒党を組みやがって。

そっぽを向くと、テーブルの下でそっと伽耶は手を重ねて来た。
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