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Vesica Pisces
第12章 太陽は静寂を愁う
猛が帰るという事で最後に一緒に食事をしようと、指定されて訪れた店は真っ白な暖簾を提げた和食のお店だった。

敷居の高そうな外観に怯んでいると、透はなんで立ち止まったのか心底分からないというようにさっさと中へと入っていった。

個室に通され、襖を開けるとそこに居たのは猛だけではなかった。

「お疲れ」

少し強張った笑顔を向けたのは昌樹と両親だった。

透も目を丸くして突っ立っているという事は、どうやら知らなかったらしい。

「座りなさい、すぐ食事が運ばれてくる」

向かいに座った透は憮然としたまま口を開かない。

猛さんは両親に挨拶が遅れたお詫びやら、透の仕事の話のフォローやら。

少しずつ打ち解けて行く両親と昌樹をよそに、透は最低限の返事だけであとは黙々と食事を平らげていた。

さくらんぼのジャムが掛かったパンナコッタを食べ終えると、表でタクシーを止めた。

「至らない点もある娘ですが、今後ともよろしくお願い致します」

「こちらこそ生意気ばかりの弟ですが宜しくお願い致します」

深々と頭を下げ合う光景に透は眉を顰めた顔で空を見上げていた。

今日の透はいつもと違う。

どことは言えないけれど、何かが明らかに違った。
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