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Vesica Pisces
第13章 太陽は静寂を零す
「ただいま」

見上げるのは透だ。

その首にぎゅっと抱きついた。

透の匂いを胸いっぱいに吸い込みたいのに、何かの匂いが邪魔をする。

異国の香りなのか、機内の匂いなのか。

降ろされると同時に透は電話に出てしまう。

相変わらずデイパック一つ背負っているだけで、空いてる左手が伽耶を呼んでいた。

それを握るのが合図、ゆっくりと歩き出した。

「なんかあった?」

電車に乗ってやっと電話を切った透は顔を覗き込む。

『…空港で…元彼にあった』

「へえ、元カレね」

『来週からうちに戻って来るらしいです』

「あ、そ」

詳しく言い過ぎたのかと少し後悔しながら、透の胸に額を押し付けてみた。

引き離す訳でも、抱き締める訳でもなく、ただそのまま電車に揺られ続けた。

猛の計らいの後、昌樹は透の家に泊まる事でブツブツ言わなくなったが、だからと言って泊まるのが当たり前になった訳でもない。

「飯、食ってこ」

目に付いたとんかつ屋の暖簾をくぐり、それぞれに定食を注文する。

『今回はイベントだったの?それともレース?』

「イベント、ジュードが動画送ってただろ?」

あの動画で透を見つけるのは一苦労だ。

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