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Vesica Pisces
第17章 太陽は静寂に交わる
『た、猛さんは来てないんですか?』

「今手が離せない仕事があるらしいので、今回は僕が来たんです』

残り少なくなったカフェオレを飲み干して、薫のカップが空になるのを待つ。

『透の…子供の頃ってどんな感じでしたか?』

間を繋ぐための問いかけに、薫は至極嬉しそうに透との思い出を語った。

とにかくやんちゃで無鉄砲で、ハラハラしっぱなしだったと笑う薫。

階段の一番上から落ちてもけろっとしていた事。

思い通りに動かない三輪車を蹴飛ばしていた事。

かくれんぼで押入れに入ったまま眠ってしまった事。

次々と出てくる透のエピソードに頬が緩むのは薫もだった。

「勝手に盛り上がってんじゃねーよ」

急に隣に座ったのは透だった。

話しに夢中で気配にも気づかなかった。

「お前も懲りねーやつ」

頬を抓られて、猛と会った後の拗ねた透がまたそこにいた。

「もう体はいいのか?」

薫が尋ねる。

「明日退院」

「相変わらず頑丈に出来てるな」

「まーね」

素っ気ない会話だけれど、薫の瞳は安心に満ちていた。

「彼女の事、大事にしろよ」

「はーい」

二人の距離が少し縮まった気がする雰囲気だった。
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