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Vesica Pisces
第20章 太陽の静寂
病棟のエレベーターを降りてすぐ、透が電話していた。

ちょっと動けるようになるとすぐこれだ。

近くの長椅子に腰を下ろして、楽しそうに話す透の横顔を見ながら、こんなゆっくりした時間を過ごすのも悪くないと思った。

思いの外短い電話で、松葉杖をつきながら部屋に戻る。

『リハビリは午後から?』

「そーじゃね?」

ナースステーションの前で不自然に周りを見回して、そそくさと前を通り過ぎる。

が、部屋に入ると看護師さんがテーブルを片付けていた。

「また脱走したかと思ったわ」

ベテランの看護師さんの目が光る。

『またって?昨日脱走したの?』

「下の売店にねーんだもん、ちょっと駅前までだよ」

駅前まで歩いて行ったら、今の透なら往復1時間はかかる。

『言ってくれればいいのに、何しにわざわざ…』

看護師さんが片したテーブルの隅に積まれたのは数冊の本。

幸せになる名付け、初めてのネームプレゼント、これでバッチリ!姓名判断。

『…赤ちゃんの名前の?』

「子供産まれてさ…ちょっとしたら、引っ越さね?」

『何処に?』

「北海道、吉信さんちの隣ー…っても、車で20分くらいかかるけど、まあ、なんつーか…もう土地押さえたんだよね」
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