この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
Vesica Pisces
第20章 太陽の静寂
病棟のエレベーターを降りてすぐ、透が電話していた。
ちょっと動けるようになるとすぐこれだ。
近くの長椅子に腰を下ろして、楽しそうに話す透の横顔を見ながら、こんなゆっくりした時間を過ごすのも悪くないと思った。
思いの外短い電話で、松葉杖をつきながら部屋に戻る。
『リハビリは午後から?』
「そーじゃね?」
ナースステーションの前で不自然に周りを見回して、そそくさと前を通り過ぎる。
が、部屋に入ると看護師さんがテーブルを片付けていた。
「また脱走したかと思ったわ」
ベテランの看護師さんの目が光る。
『またって?昨日脱走したの?』
「下の売店にねーんだもん、ちょっと駅前までだよ」
駅前まで歩いて行ったら、今の透なら往復1時間はかかる。
『言ってくれればいいのに、何しにわざわざ…』
看護師さんが片したテーブルの隅に積まれたのは数冊の本。
幸せになる名付け、初めてのネームプレゼント、これでバッチリ!姓名判断。
『…赤ちゃんの名前の?』
「子供産まれてさ…ちょっとしたら、引っ越さね?」
『何処に?』
「北海道、吉信さんちの隣ー…っても、車で20分くらいかかるけど、まあ、なんつーか…もう土地押さえたんだよね」
ちょっと動けるようになるとすぐこれだ。
近くの長椅子に腰を下ろして、楽しそうに話す透の横顔を見ながら、こんなゆっくりした時間を過ごすのも悪くないと思った。
思いの外短い電話で、松葉杖をつきながら部屋に戻る。
『リハビリは午後から?』
「そーじゃね?」
ナースステーションの前で不自然に周りを見回して、そそくさと前を通り過ぎる。
が、部屋に入ると看護師さんがテーブルを片付けていた。
「また脱走したかと思ったわ」
ベテランの看護師さんの目が光る。
『またって?昨日脱走したの?』
「下の売店にねーんだもん、ちょっと駅前までだよ」
駅前まで歩いて行ったら、今の透なら往復1時間はかかる。
『言ってくれればいいのに、何しにわざわざ…』
看護師さんが片したテーブルの隅に積まれたのは数冊の本。
幸せになる名付け、初めてのネームプレゼント、これでバッチリ!姓名判断。
『…赤ちゃんの名前の?』
「子供産まれてさ…ちょっとしたら、引っ越さね?」
『何処に?』
「北海道、吉信さんちの隣ー…っても、車で20分くらいかかるけど、まあ、なんつーか…もう土地押さえたんだよね」