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Vesica Pisces
第4章 太陽は静寂を開く
ぽかんと口を開いた伽耶は呆けていて、みるみるその表情は破顔していった。

笑顔を通り越してぽろぽろと涙を零した。

「え?おい、何だよ」

「にいちゃん、女泣かせんなよ」
「デートに居酒屋なんか選ぶからだろ?」

酔っ払い達は好き勝手に囃し立てて、伽耶は顔を覆っていた。

「あー、もう、なんなんだよ」

『ごめんなさい、何か…嬉しくて…今日会社でトラブって…でも私はいつも何もできないから…それ思い出しちゃって…』

「よくわかんねーよ」

泣きながら笑う伽耶。

「何か辛い事があったんだなぁ、かわいそうに」
「若いうちは色々あるよなぁ」

泣いてる伽耶の手話が通じたわけでもないのに、酔っ払い達は何かを察して慰める。

会話なんて、言葉なんて無くてもこんなもんだ。

それからの伽耶は表情豊かに、良く話すようになった。

店を出る頃には酔っ払いの常連客達とすっかり意気投合して、ハグまで交わしたくらいだ。

店を出て大通りに出ると、やはり伽耶の手は躊躇った。

唇を読んで極力手を動かさないように、動かしても死角を作りなるべく最小限にとどめた。

着信に震えるスマホに二人して足を止めた。

吉信からのそれに応答し、帰郷の話をする。

隣で伽耶はメールを返していた。
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