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Vesica Pisces
第6章 太陽は静寂を引く
「マジ透じゃん」
「ここがホームって噂本当だったんだ」

18.19歳のスノーボーダーが遠巻きに口にする。

何十本もシュプールを描き、思い描くエアを試す。

汗が滴り、真っ白な息が出始める。

「一緒に、いいっすか?」

近づいて来たのは然だった。

夕食も朝食も一言も話さなかった然。

多感な年頃なのか、人見知りなのか、特に話しかけたい事もなく放っておいた。

「悔しいけど、ハンパねぇもん」

どうやら滑りを目の当たりにして、その実力の差に愕然としたらしい。

そこで学ぼうとする素直な姿勢に、然の未来が開かれて居ることを悟った。

「跳ぶ直前の重心の位置をもうちょい後ろでいい」

気持ちだけが先走る然を見て居ると、自分のガキだった頃を思い出す。

力で技を捩じ伏せるエア。

そうじゃない、もっと自然に当たり前に見える線をなぞればいい。

毎晩ナイターの明かりが消えるまで二人でああでもない、こうでもないと練習に明け暮れた。

「お前ら兄弟みたいだな」

食事の手を止めて顔を見合わせると、然はつんっと横を向いた。

「こんなうるせー兄貴はいらね」

「こんな生意気なクソガキ、やだね」

日に日に上手くなる然を見てるのは楽しかった。
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