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Vesica Pisces
第6章 太陽は静寂を引く
4日目の夜、買い出しに向かう車の中で吉信と他愛の無い話をする。

スノーボードの現況や仕事の具合、遠征の愚痴。

「お前はまだまだ伸びる」

「いつまで伸ばす気だよ」

吉信に預けられた頃からもう10何年、頭をぐしゃぐしゃに撫でながら繰り返される吉信の決め台詞。

父親代わりの吉信が居たから今の自分がある。

「お前、決まった女はいないのか?」

「はぁ?」

「取っ替え引っ替えしてんじゃねぇよ、ふらふらしてると大事な女を見落としちまうぞ」

「うっせ」

窓の外を見つめても地平線まで真っ白な大地が続くだけだ。

伽耶は。

伽耶はこんな景色を見たことがあるだろうか。

もしこの景色を見せることが出来たらなんて思うだろう。

ランプやトゥイークらと雪原をあの笑顔で走り回るだろうか。

「何だ、ちゃんと居るんじゃねえか」

ドンっと胸を叩かれて一瞬息が詰まる。

「手加減しろよっ!!」

ガハハと笑う吉信に見透かされたものを否定しなかった。

「もう帰れ、明日の飛行機一人分くらい空いてるだろうが」

吉信はいつだって絶妙のタイミングで背中を押してくる。

翌日、然と二匹に別れを告げて空港まで送ってもらう。
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