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Vesica Pisces
第7章 太陽は静寂を掴む
二人きりがいいなんて、変に思わなかっただろうか。

でもその後も透はいつも通りで、きっと大した意味もないと流されたのだろう。

それとも、そんな事は日常茶飯事なのかもしれない。

車のオーディオだけが光る車内。

「仕事の電話、出てもいい?」

『もちろんです』

深夜四時の電話が仕事の話し。

唇を見ても明らかに日本語でないもので、こんなに側にいるのに遠く感じてしまう。

もっと近づきたい。

もっと会いたい。

透の世界に自分もいたいと思う。

透の世界を一緒に見たいと思う。

それがどういう感情なのかはわかるのに、どうしても踏み出せない。

透がどういうつもりでキスをしたのか、初詣に誘ったのか。

訊けばきっと答えてくれる人だけれど、自分の欲しい答えじゃなかったら、この先が無くなってしまう。

笑顔を浮かべて話す透の横顔を見ていると、もうそれだけで十分な気持ちで満たされてしまう。

欲張りだなと嘲笑して、フロントガラス一面の闇を見つめていた。

肩を揺さぶられて目を開くと、いつの間にか眠っていたのだと分かる。

フロントガラスの景色はすっかり変わっていて、白み始めた夜明けがそこまで来ていた。

『海…』



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